IGS通信 2015

国際シンポジウム:ジェンダーで見る新自由主義・政策・労働

お茶の水女子大学創立140周年記念国際シンポジウム
「ジェンダーで見る新自由主義・政策・労働 社会的再生はいかに行われるのか?」

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スーザン・ヒメルヴァイト氏
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上野千鶴子氏
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定松文氏
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足立眞理子氏
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伊田久美子氏
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猪崎弥生氏
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石井クンツ昌子氏
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  2015年12月1日(火)にお茶の水女子大学にて、グローバル女性リーダー育成研究機構ジェンダー研究所主催による「ジェンダーで見る新自由主義・政策・労働―社会的再生産はいかにおこなわれるのか?」というテーマで国際シンポジウムが開催された。午後6時過ぎからの開催ではあったが、134名の参加者を迎え、活発な議論が行われた。総合司会は、足立眞理子(本学)がつとめ、本シンポジウムの開催趣旨が説明された。
最初の登壇者であるスーザン・ヒメルヴァイト氏(英国オープン大学)は「新自由主義化における危機と社会的再生産の規範の変容」という題目で報告した。先進諸国において、社会的再生産に対する国家の関与は、社会的再生産を確実に維持しながら女性の就労を可能にするための様々なケア支援を含んできた。しかし、近年、厚いケア支援によりジェンダー平等に貢献してきた福祉国家でも、福祉プログラムの拡大に制限を加えるようになってきている。社会的再生産費用の多くを民営化する政策は、国家の支援をとりわけ必要とするシングルマザーなどを貧困に陥れる危険を高めてきた。そして、金融危機がさらにこの傾向を推し進め、財政再建のための緊縮策が、社会的再生産における国家の役割をさらに削減した。新自由主義政策では、国家が負担するケアの水準を下げ、ケアを受けられる人を制限し、ケアの責任を家族に負わせることになった。これによって女性のアンペイド労働がさらに増え、女性の雇用機会と収入を削減し、その結果、女性が多く負担するようになったのである。ヒメルヴァイト氏は、新自由主義下の財政再建を名目とする緊縮策の本当の目的は、社会的再生産に関する規範と基準そのものを変容させることにあったのであり、それこそが新自由主義の政治的目的であると指摘した。
ヒメルヴァイト氏の報告を受けて、次の登壇者である上野千鶴子氏(立命館大学・東京大学)は「新自由主義とジェンダー:日本の経験」という題目で報告した。上野氏は、アベノミクスの新3本の矢のひとつである「安心につながる社会保障(介護離職ゼロ)」について懸念を示した。新自由主義政策が男女平等の推進と雇用の規制緩和を同時に行ってきた理由は、少子化により女性を日本に残された最後の資源とみなし、女性を、子どもを産み育て、介護も担い、さらに賃金労働にもつく、都合のよい働き手とするためであったと分析した。その結果増えたのが非正規雇用であり、女性労働者の6割が非正規労働についている。非正規雇用者の賃金は正規雇用の場合の3分の1にも満たず、労働市場でも一人前には扱われない。こうした状況は正規雇用につける女性とそうでない女性の間にも格差をもたらしている。労働形態による不公平感の解消には(1)労働時間の短縮、(2)年功序列の廃止、(3)同一労働同一賃金の確立が必要だが、政府はこれとは反対の規制緩和をいっそう進めている。最後に上野氏は、人間の生命を育てその死を看取る労働(再生産労働)が、労働の中でも最下位におかれ、その値段が安いのはなぜかという根源的問題はなお解決されていないと提起した。
上野氏の報告を受けて、最後の登壇者である定松文氏(恵泉女学園大学)は「仕事創出と女性間格差」という題目で報告した。定松氏は国家戦略特区に指定されている神奈川県と大阪府が取り組んでいる、外国人の家事労働者雇用のための法整備をあげて、この特区法が女性を「雇う女性」「雇えない女性」「下支えする外国人女性」の3つに分断することに言及した。また日本の雇用政策の歴史的変遷データを示しながら説明し、日本の労働行政の大きな転換点は1986年の派遣法施行であり、バブル崩壊にはじまった金融危機とデフレの長期化といった低成長期において、雇用の調整弁として派遣労働者が利用されてきたという。そして1996年の労働派遣法の改正を境に、正規雇用と非正規雇用の格差が女性間の格差を生みだし、経済エリート側の女性と搾取される側の女性を分断してきたという。定松は「人材」をキーワードに、人が使い捨ての材料とされ、こうした労働政策が、ジェンダー格差や学歴の格差よりも、女性間格差を広げていると指摘した。
討論では、斎藤悦子氏(本学)が司会を務めた。討論者の足立眞理子氏(本学)は、ヒメルヴァイト氏の「新自由主義下の緊縮財政政策は規範の変容を正当化するための観念である」という議論を評価し、これが、新自由主義における国家統治の技法であることを指摘した。また、フェミニスト経済学において、ジェンダー平等政策を推進する場合、デフレ―ションや財政緊縮策が、ジェンダー平等に負の効果を与えることについては、一定の合意がなされているが、経済成長そのものの是非については、どう考えているのかについて質問した。上野氏へは日本の近未来予測を問い、日本におけるジェンダー格差の階級化に対する認識の欠如について質問した。定松氏へは、派遣労働に着目した理由、派遣法と雇用機会均等法制定の同時代性、外国人家事労働者に対する市民モニタリングについて質問した。
次に伊田久美子氏(大阪府立大学)は、新自由主義が女性主体へいかなる影響を及ぼしたかという問いを立て、ヒメルヴァイト氏、上野氏の議論を受け、ネオリベラルな社会変化とジェンダー平等実現の共時性、共犯性を指摘した。さらに定松氏へは、なぜジェンダー間格差ではなく、女女間格差により注目するのかと質問した。
登壇者からの応答では、ヒメルヴァイト氏は緊縮財政政策が、政策的には一貫性はないが、イデオロギー的にはあることは多くの事例から実証できると述べた。また、経済成長の是非については今後の検討課題とし、加えて新自由主義政策は女性の問題解決を生み出さないことを主張した。
上野氏は、近未来予測については、現政権は女性の格差拡大を是認していると批判し、どの階層を問わず少子化が進むことを予測した。さらに今後の日本では、階級間格差だけでなく人種、国籍という変数が登場するだろうと指摘した。そして今後、女性が分断され連帯が益々難しくなることに懸念を示した。
定松氏は、派遣に焦点を当てた理由は、人材派遣会社が蓄積する資本に着目したためであり、均等法との関連は今後の課題であると述べた。そしてジェンダー間格差の大きさには同意するが、今後懸念される女性間の格差拡大についても考察することの重要性を主張した。また最後に外国人労働力の搾取に対する懸念と市民モニタリングの重要性を強調した。
討論者と登壇者双方の熱意とこの問題解決に対する真摯な姿勢が印象的な会であった。

(記録担当:仙波由加里・臺丸谷美幸 IGS特任RF)

《開催詳細》
【日時】2015年12月1日(火)18:10~21:10
【会場】お茶の水女子大学共通講義等2号館201号室
【開会挨拶】猪崎弥生(お茶の水女子大学副学長)
【報告】
スーザン・ヒメルヴァイト(英国オープン大学名誉教授)
「新自由主義化における危機と社会的再生産の規範の変容」
上野千鶴子(立命館大学特別招聘教授・東京大学名誉教授)
「新自由主義とジェンダー:日本の経験」
定松文(恵泉女学園大学教授)
「仕事創出と女性間格差」
【ディスカッサント】
足立眞理子(IGS教授)
伊田久美子(大阪府立大学教授)
【総合司会/コーディネーター】足立眞理子(IGS教授)
【討論司会】斎藤悦子(IGS研究員・お茶の水女子大学准教授)
【閉会の辞】石井クンツ昌子(IGS所長)
【主催】お茶の水女子大学ジェンダー研究所
【共催】お茶の水女子大学グローバルリーダーシップ研究所
【後援】大阪府立大学女性学研究センター
【参加者数】134名

《 2016/1/5掲載 》

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