IGS通信

セミナー「持続可能な社会をめざすエンパワメントの教育」

IGSセミナー報告「持続可能な社会をめざすエンパワメントの教育:ジェンダーの視点から」

2019年12月11日(金)に、IGSセミナー「持続可能な社会をめざすエンパワメントの教育:ジェンダーの視点から」を開催した。講師は、⻑らくユネスコで開発と教育の問題に関わってこられた菅野琴氏(元ユネスコ職員ネパール事務所代表、関⻄学院大学特別客員教授、国立⼥性教育会館客員研究員)。このセミナーは、お茶の水⼥子大学大学院の「国際社会ジェンダー論演習(19J1078)」の一環でもあった。

菅野氏はまず、国連の活動の準拠枠たる世界人権宣言を紐解かれ、教育における差別撤廃条約と⼥性差別撤廃条約の採択、万人に教育を「EFA」運動の国際的な取り組み、北京⼥性会議の開催という、20世紀における教育とジェンダーに関わる経緯を概説された。

1990年代から2000年代にかけて、「万人に教育を」運動などが展開されたにもかかわらず、既存の教育の在り方がジェンダー中立的でないことが問題にされないことで、ジェンダーの問題について目を閉ざしてしまい(ジェンダー・ブラインド)、現状を肯定的に見ようとしてしまうこと(現状肯定レンズ)から、男⼥間格差は埋まらない現状が示され、東南アジアやサハラ以南アフリカ、アラブ諸国で地域間のジェンダー格差が顕著となったことがデータを伴って指摘された。

このようなことが起きたのは、政府、トップレベルのコミットメントの欠如、ジェンダー平等政策がリップサービス=政策文書と現実の執行のギャップとなって現われ、⼥子・⼥性教育事業が小規模で、周辺化され続けた状況から、ジェンダー不平等と差別の構造が不問のまま、⼥子の教育参加が初等教育に留まり、高等教育や社会でのジェンダー平等につながらなかったことが大きく影響していたという。

また⼥子の就学率が男子よりも高くなったネパールの事例においても、社会文化的な⼥性差別の構造が変わらないままであったことから、男⼥間の就学率格差の解消がジェンダー平等の達成には至らなかったことが明らかにされた。

以上のような事例を踏まえつつ、Beyond Parity=数の上での平等(就学率、在籍率、進級率)を達成するだけでなく、教育の機会/アクセスの平等、学習プロセスでの平等、教育の結果での平等(卒業後の就職や収入など)をチェックして、ジェンダー主流化という視点から、教育システム全体を捉える必要があるという指摘がなされた。

さらに、昨今の地球環境問題に関連して、持続可能性を軽視し、経済効率・成⻑を重視する持続不可能な社会=ジェンダー不平等な社会に対して、ジェンダー平等と持続可能性を繋げるものとしての、エコフェミニズムの重要性が強調された。「男性対⼥性、文化対自然、先進国対途上国といった支配者―被支配者・ヒエラルキー的二元論を超えた、男性と⼥性、人間と自然に関する新しい関係を構築するための思想」としてのエコフェミニズムは、SDGs の適切な捉え返しのためにも必要であるということだった。

質疑応答では、環境問題と開発との関係、ジェンダーと環境から始まり、国際的な機関で働く際の情報共有におけるジェンダー格差の問題やキャリアパスの問題についても、活発な議論が交わされた。

記録担当:板井広明(IGS特任講師)

《イベント詳細》
IGSセミナー「持続可能な社会をめざすエンパワメントの教育:ジェンダーの視点から」

【日時】2019年12月11日(水)13:20〜14:50
【会場】国際交流留学生プラザ3階セミナー室
【司会】板井広明(IGS 特任講師)
【講師】菅野琴(元ユネスコ職員ネパール事務所代表、関⻄学院大学特別客員教授、国立⼥性教育会館客員研究員)
【参加者数】17名