IGS通信

セミナー「提供精子・提供卵子による家族づくりとドナーリンキング」

IGSセミナー(生殖領域シリーズ)
Family Building by Donor Conception and Donor-linking
提供精子・提供卵子による家族づくりとドナーリンキング(血縁者探し)

諸外国には、ドナーの情報を知ることは提供精子や提供卵子で生まれた人の権利であると、法律でこれを擁護しているところもある。オーストラリアのヴィクトリア州もその一つであり、ヴィクトリア州では提供精子や提供卵子での出生者は生まれた年代に関係なく誰でも希望すればドナーの情報をたどることができる。本セミナーでは、スウィンバーン工科大学のデボラ・デンプシー氏が、オーストラリアリサーチカウンシルより研究資金助成を受けて現在すすめている研究プロジェクト‘Families of Strangers?: The Socio-Legal Implications of Donor Linking in Australia’(見知らぬ人と家族?オーストラリアにおけるドナーリンク(登録データベース)の社会的・法的影響)の調査結果の中から、オーストラリア・ヴィクトリア州におけるドナーリンクでつながる家族や血縁者探しの状況を報告した。

ドナーリンキングは、精子や卵子のドナー、提供を受けた親、提供精子や提供卵子で生まれた人々が誰であるか、名前や住所を含む互いの情報にアクセスしてつながるプロセスである。オーストラリアのヴィクトリア州も、2017年3月より施行されているAssisted Reproductive Treatment Amendment Act 2016という法律で、出生者は過去に匿名で提供したドナーの情報にもアクセスできるようになった。この法律によって、提供精子や提供卵子で生まれたすべての成人、ドナー、提供を受けた親たち、そして提供精子や提供卵子で生まれた人の子孫であれば、誰でも情報開示を申請することができる。ドナーのプライバシーよりも出生者の利益や知る権利を重視し、ドナーの匿名性を完全廃止したところは世界でもヴィクトリア州しかない。誰でも遺伝子検査を受けられる時代を迎えて、「真実はいずれわかってしまう」という見方から、ドナーリンキングに関心をもつ人が次第に増えているという。

ヴィクトリア州の提供精子で生まれた人やその家族、ドナーたちの中には、政府主導の情報登録制度を利用する人もいるが、近年では、民間の遺伝子検査やソーシャルメディアを直接利用するなどして、精子ドナーや同じドナーから生まれた生物学的兄弟姉妹を見つけるケースがめずらしくなくなってきている。自主的に自分自身の情報を登録するドナーも増える一方で、ドナーや同じドナーから生まれた異母兄弟から申請があり、出生者に問い合わせると、親から出生の事実をまだ知らされていなかったというケースも少なくない。すなわち、このような法律があっても、まだ子どもに事実を話していない親が多いことがわかる。一方ドナーたちが子どもについての情報を問い合わせる理由は、主に①クリニックから提示された自分の精子が何家族に提供されたかや生まれた子どもの人数などに関する情報を確認したい、②自分の提供で生まれた子がどのような容貌なのか、もしくはその子にどのような能力や才能があるかに興味がある、である。そしてドナーの中には、すでに自分にコンタクトをとってきた、自分の提供によって生まれた子からのすすめで申請をはじめた者もいた。ヴィクトリア州のドナーリンクモデルにおける長所と課題が浮かび上がった。

日本でも提供精子による人工授精で最初の子どもが生まれてから70年以上が経過し、最近では提供精子で生まれた日本の当事者たちの間からもドナー情報の開示を求める声も聞かれるが、ドナーの匿名性は維持されたままである。この問題に関心を持つ研究者のみならず、複数の精子提供の当事者たちもセミナーに参加し、活発な議論が展開された。

記録担当:仙波由加里
(IGS特任リサーチフェロー)

《イベント詳細》

【開催日時】2020年9月9日(水)12:15~13:45 (日本時間)/14:15~15:45 (メルボルン時間)
【会場】オンライン開催
【講演】デボラ・デンプシー Deborah Dempsey  スウィンバーン工科大学准教授
報告タイトル:Families of Strangers? Donor-linked families in Victoria, Australia
見知らぬ人と家族?オーストラリア・ヴィクトリア州におけるドナーリンクでつながる家族
【司会】仙波由加里(お茶の水女子大学 IGS特任リサーチフェロー)
【言語】英語(日本語逐次通訳あり)
【参加者数】101名