IGS通信

セミナー「フェミニズム出版と運動:共感と啓蒙をどう繋げるのか」

2022.7.28 IGSセミナー「フェミニズム出版と運動:共感と啓蒙をどう繋げるのか」

イベント詳細

2022年7月28日(木)、IGSセミナー「フェミニズム出版と運動:共感と啓蒙をどう繋げるのか」が、所属教授申琪榮氏の担当する「フェミニズム理論の争点ゼミ」との共同で開催された。ゼミ受講者小嶋里菜氏、花岡奈央氏の司会により、雑誌『シモーヌ』編集者山田亜紀子氏の報告と事前アンケートをもとにしたトークセッションが行われた。

はじめに企画者である申氏から開催の経緯が説明された。申氏はIGSの刊行する学術雑誌『ジェンダー研究』の編集長としての経験などから、学術的な論文では広くリーチできるものが書きづらいと感じていた。そんな中「雑誌感覚で読めるフェミニズム入門ブック」として刊行されたことで注目していた『シモーヌ』への寄稿依頼を山田氏から受けた。そこで、フェミニズムの書き物を制作する思いや困難などについて知るべく山田氏に依頼をし、本セミナーが実現した。

続いて山田氏より、まず『シモーヌ』の概要が報告された。『シモーヌ』は2019年11月現代書館より創刊され、創刊号特集はシモーヌ・ド・ボーヴォワールであった。『シモーヌ』というタイトルは、運動と連帯していた時期があった3人のシモーヌ、ボーヴォワール(哲学者)、ヴェイユ(Weil、哲学者)、ヴェイユ(Veil、政治家)からとった。男女二元制から脱却し、多様な性を包括するフェミニズム媒体を目指し、ボーヴォワールの「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」からもう一歩踏み出してジェンダーを考えていこうという気持ちではじめた。フランス寄りの雑誌を企画した理由として、自身がフェミニズムに触れるきっかけになったのは映画監督アニエス・ヴァルダであり、ヴァルダとの繋がりからボーヴォワールを知ったこと、日仏女性研究学会に所属などしていること、また韓国や欧米のフェミニズムはすでに多く翻訳されていたことをあげた。第4号までは人物特集を行なっていたが、時事問題を取り扱うには限界があるように感じテーマ特集を試みたところ好評を博した。テーマ特集の方が入りやすいのではないかと考え、当面はテーマ特集にシフトする。

次に『シモーヌ』をつくりたかった背景として山田氏は、ボーヴォワール『第二の性』(1949)刊行から70年を迎えること、そしてSNS台頭による第4波フェミニズムの盛り上がりをあげた。特にTwitterは多様な声を可視化する重要なツールであり、自身も運動には使用している。しかしTwitterでの議論には限界を感じており、自身が音楽や映画からフェミニズムに入りその後に本を読むことで深まった経験から、SNSでフェミニズムに興味を持った人に活字に触れてほしいと考える。だが大学に通っていない人にとって学術書などはどの本から手に取って良いかわからないため、理論書、古典、名著に触れるきっかけとなるような媒体を目指したいと考えた。さらに書店員として女性向けのフロアにてフェミニズム、ジェンダーの選書も行なっていた経験を『シモーヌ』の制作で活かすことができるとも考えた。書店員をしていた当時、フェミニズム関連の本でもタイトルにはフェミニズムと入れないほどにフェミニズム関連の本は売れなかった。さらに学術書、理論書は刷り部数も少ないため高額となり、扱う書店も限られていた。しかし近年、マララ・ユサフザイ氏のノーベル平和賞受賞や、SNSの台頭、海外のフェミニズムの盛り上がりにより、エッセイ、翻訳などのフェミニズム関連書の出版が増えた。また書店員の志が売り場に反映されるような独立型のセレクト書店でフェミニズムの棚が増え、多様なフェミニズムが歓迎される土壌ができたことが『シモーヌ』制作の意欲へと繋がった。創刊にあたっては雑誌が今時売れるのかという懸念が社内にあったが、文芸雑誌や翻訳における近年のフェミニズムの盛り上がりをアピールした。企画が通ったのは、比較的小さな出版社ゆえ編集者が自由にできるところがあったためではないかと考える。

報告の最後に山田氏は『シモーヌ』が目指していることを語った。山田氏は共感と啓蒙について次のことに着目する。山田氏によれば、1975年に田中美津氏や米津知子氏らが参加していたミューズカル“おんなの解放”におけるスローガン「啓蒙より共感、怒りより笑い」にはリブ/運動の人たちが共感を大事にしていることが現れている。また天皇制反対の立場を明らかにし風刺も行うなど、今のフェミニズムとの志の違いが見られる。そして1980年代後半から90年代前後、運動側と研究側の関心にずれが出てきた。研究者中心で男女共同参画が進められるなど、市民啓蒙が重視され、女性学・ジェンダー学者の情報が力を持つようになった。山田氏はフェミニズムの広がりには共感(多様な生と性の可視化)が、またフェミニズムの差別への加担の気づきなどを深めるには啓蒙(多様性を排除しないための知識)が共に必要であり、その両者を行き来する媒体を目指し『シモーヌ』を編集しているとした。

トークセッションでは、『シモーヌ』は学術書よりは手に取りやすいものの入門としてはハードルが高く感じられるなどの意見が寄せられた。山田氏によれば、共感と啓蒙両方の文章が入っていることで、難しく感じた部分も後に思い出してもらえることに意義がある。さらに同時に全ての人にわかってもらおうとする必要はなく、時間差でも連帯が広がっていくことが大事である。また昨今のトランス女性排除言説などにはフェミニズム媒体として抗議し続けていきたいし、何かしらのアクションが必要だと考えている。山田氏は、アカデミアにいる人には色々な情報にアクセスできる特権が、編集者には本をつくり頒布できる特権が、あるとする。そして例えば社会的弱者とされている人が声を上げると誹謗中傷に遭い孤立しやすい状況が続いているため、安全な環境で対話ができるイベントなどを開催する重要性を指摘した。他に今後の『シモーヌ』やフェミニズム運動の展開について様々な意見が交わされ、セミナーは終了した。

記録担当:伊奈留偉(お茶の水女子大学大学院博士前期課程ジェンダー社会科学専攻)


《イベント詳細》
IGSセミナー(学内限定)「フェミニズム出版と運動:共感と啓蒙をどう繋げるのか」

【日時】2022年7月28日(金)15:30-17:00
【会場】人間文化研究科棟408室(対面)
【ゲスト】山田亜紀子(雑誌『シモーヌ』編集者)
【司会】
小嶋里菜(お茶の水女子大学 博士前期課程 ジェンダー社会科学専攻)
花岡奈央(お茶の水女子大学 博士前期課程 ジェンダー社会科学専攻)
【主催】ジェンダー研究所、フェミニズム理論の争点ゼミ
【言語】日本語
【参加者数】21名