IGS通信

セミナー「日本(と世界)における性的マイノリティの政治」

イベント詳細

2022.11.9 IGSセミナー(学内限定)「日本(と世界)における性的マイノリティの政治」

 お茶の水女子大学ジェンダー研究所(IGS)は、2022年11月9日にIGSセミナー「日本(と世界)における性的マイノリティの政治」をハイブリッドで開催した。神戸大学教授の青山薫氏を報告者として招聘し、司会はIGS特任講師の嶽本新奈が務めた。このセミナーは、IGSとタイのアジア工科大学院大学(Asian Institute of Technology: AIT)により毎年実施されている国際研究交流プログラム「AITワークショップ」の一環として行われたもので、AITから来日中であった交換留学生2名も参加した。
  青山氏は、「性をめぐる問題は政治的である:フェミニストの遺産」、「国民国家:個人的なものに呼応する市民権と人権」、「市場とピンクウォッシング:親密さの商業化と性的なものの脱政治化」、「行為者としてのセクシュアル・マイノリティ:変化を為す者」、「研究・考察に求められる繊細な感性」 という5つのトピックを通して、講演テーマであるセクシュアル・マイノリティのポリティクスについて次のような報告を行った。
 
1:性をめぐる問題は政治的である:フェミニストの遺産
青山氏はまず、17世紀にキリスト教が罪人と定義した「同性愛者」の誕生について解説した。19世紀、同性愛は犯罪化され、病理化された。20世紀まで、産業社会の中核をなす中産階級の間では、同性愛は「間違い」であり、異性愛は「正しい」という考え方が一般的であった。資本主義社会においては、中産階級家庭の生殖機能は欠くことができない主要な構成要素であることから、ゲイ、レズビアン、トランスジェンダーの人たちへの偏見の一因となったと考えられる。生殖だけでなく、ケアも含めた家族の本当の機能についても詳しく説明された。この2つの役割は、女性(妻や母)が愛の労働として無報酬で行っていたのである。これらのことから第二波フェミニストの多くは、セクシュアリティを含む個人の選択はまさに人権であり、政治的な問題であると提起してきた。
2:国民国家:個人的なものに呼応する市民権と人権
次に青山氏は、LGBTQの市民権や人権にかかわる「同性婚」に焦点をあてた。一部の国では同性婚は合法化されているが、日本では同性カップルのパートナーシップ証明書はあっても、同性婚は法律で禁じられている。同性婚を合法化すべきかどうか、同性婚の合法性を否定することが違憲であるかどうか、議論が続いている。“21世紀の国家は、LGBTQの権利を人権として捉えているのだろうか?”、青山氏はこう問いかけた。
3:市場とピンクウォッシング:親密さの商業化と性的なものの脱政治化
日本を含め、多くの国でLGBTがブームになっている。第3パートで、青山氏はこの現象を支持と懸念の2つの側面から捉えた。”LGBT “の権利は守られるべきだが、ピンク・ウォッシングやLGBTトピックの過剰な商業化も憂慮されるべきである。親密さの商業化は現在、世界中で起こっており、LGBTのトピックは簡単に大きな収益を上げることができる。しかし、多くの実質的な人権(ジェンダー不平等、貧困問題、レイシズムなど)を尊重する視点と問題意識が抜け落ちているのが現状である。
4:行為者としてのセクシュアル・マイノリティ:変化を為す者
第4パートで青山氏は、LGBT当事者たちが社会の変革者として活動する際に、”LGBT “ブランドを活用することのメリットとデメリットを列挙した。メリットは、”生き残る”、”権利の前進”、”人生のチャンスを増やす”、”対等な市民や人間になる” などに集約される。デメリットは、”新自由主義の強化”、”マイノリティの忘却”、”権力の乱用”、”他者の搾取”であった。
5:研究・考察に求められる繊細な感性  
最後に青山氏は、セクシャル・マイノリティの政治について研究・考察する際には、繊細な感性を働かせてほしいと提起した。例えば近年、(LGBTの中で)”G “(のみ)を主流化していく傾向に対して、他のマイノリティはどのように対応するべきか。私たちは、政治的、経済的、人口動態的、文化的、地理的、民族的、言語的、地域的、宗教的に異なる環境で何が起きているのかを注意深く繊細に考察すべきであると結ばれた。
 講演の後は活発な質疑応答が交わされた。多くの参加者から質問が寄せられ、青山氏は回答を通じて今回のセミナーの内容をさらに深めた。

江天瑶Tianyao JIANG(お茶の水女子大学博士後期課程)(訳:嶽本新奈)


《イベント詳細》
IGSセミナー(学内限定)「日本(と世界)における性的マイノリティの政治」

【日時】2022年11月9日(水)18:30-20:00
【会場】ハイブリッド開催
オンライン(Zoomウェビナー)
対面(お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科棟408室)
【報告者】青山薫(神戸大学教授)
“Sexual Minority Politics in Japan (in the World)”
【司会】
嶽本新奈(IGS特任講師)
【主催】ジェンダー研究所
【言語】英語
【参加者数】18名