IGSセミナー(生殖領域シリーズ)第1回 「AID出生者のドナー情報を得る権利」
2016年6月8日(水)、お茶の水女子大学にて、ジェンダー研究所主催の第一回IGSセミナー(生殖領域)を開催した。このセミナーは、東京医科大学の久慈直昭教授、城西国際大学の清水清美教授とお茶の水女子大学ジェンダー研究所の仙波の3人で研究をすすめている「生殖医療で形成される多様な家族と当事者のウェルビーイングを考える研究会」の一部として開催した。そして今回のセミナーでは「AID出生者の出自を知る権利」をテーマに討論した。
最初の登壇者の久慈直昭氏(東京医科大学)は産婦人科医であり、実際にAID(提供精子を使った人工授精)を実施してきた経験を持つ。久慈は「医師から見た各国のAID事情~ドイツ・イギリス・ベルギー等の状況」と題して、まず、AIDが抱える問題を提示し、次にドイツ・イギリス・ベルギー等の状況について、自分が実際に現地に足を運び、得た情報を報告した。AIDにより起こっている問題は、子が偶然に知った場合、これまでの親子関係に影響が及んだり、自らのアイデンティティの喪失、および遺伝情報の欠如から起こる遺伝病や近親婚の不安があげられる。そのため、久慈たちはAID開始時に夫婦に、①精子ドナーは匿名、②事実を告知したほうがいい、③告知しても家族関係は悪くならない、④どうしても話せないときには、子どものリスク(子どもの苦痛)を最初に考慮するように伝えているという。諸外国に目をむけると、法によって「知る権利」が確保されるようになったことで、改正前のドナー情報が破棄されたり(ドイツ・オランダ)、提供者不足が生じたりしている例もある。こうした状況を踏まえて、日本で今後もAIDを継続して提供するために、提供が社会的善として認められるようになることや、親子関係を法で確定すること、さらにカウンセリングの整備が必要だと述べた。
二人目の登壇者の仙波由加里(お茶の水女子大学ジェンダー研究所)は、「AID出生者のドナー情報を知る権利―英国・オランダ・ドイツ・米国の状況」と題して、現地に足を運び、得た情報を報告した。英国とオランダは、国が主体となって、DNA鑑定をベースにして、ドナーと出生者、同じドナーから生まれた生物学的きょうだいを探す支援をしている。本報告では英国のUK DonorLink(2013年に閉鎖、現在はNational Gamete Donation Trustに業務を移管)とオランダのFiomの活動について紹介し、出生者のドナー情報を得る権利がどのように保障されているのかについて紹介した。また、ドイツは判例によってAID出生者のドナー情報を得る権利が認めらえるようになったが、その判例(サラ・ピーンコスの事例)を紹介した。最後に米国については、米国統一親子関係法にて、どのように生殖医療で形成された親子関係を規定しているかを紹介した。遺伝子検査の普及から、偶然に育ての親と血縁がないことを知る者が現れたり、AID出生者がドナーや、同じドナーから生まれた人を特定するケースについても触れた。そして、これらの諸外国の事例を踏まえて、ドナーの匿名性が保障できないことを前提に、日本でもドナーの匿名性の廃止を訴えた。
記録担当:仙波由加里(IGS特任RF)
【日時】2016年6月8日(水)18:30~20:30
【会場】お茶の水女子大学人間文化創成科学研究棟4F 408教室
【報告】
久慈直昭(東京医科大学 産婦人科教室)「医師から見た各国のAID事情~ドイツ・イギリス・ベルギー等の状況」
仙波由加里(お茶の水女子大学 ジェンダー研究所)「AID出生者のドナー情報を知る権利―英国・オランダ・ドイツ・米国の状況」
【主催】お茶の水女子大学ジェンダー研究所
【参加人数】22名