IGSセミナー「ヨーロッパにおける家庭科教育の現状」
2017年12月2日(土)、お茶の水女子大学にて、IGSセミナー「ヨーロッパにおける家庭科教育の現状」を開催した。本セミナーでは、最初に、ヨーロッパ各国で家庭科教育の現地調査を実施している表真美氏(京都女子大学教授)が、自身が撮影した豊富な写真や資料をスライドで紹介しながら、各国の家庭科教育の現状を報告した。
アメリカをはじめとする多くの国が、家庭科(Home Economics)の名称を、「Family Science」などに変える中、アイルランド共和国では、「Home Economics」の名称を維持し、国の統一カリキュラムとしている。中等教育の最終学年で実施される国内統一試験でも、家庭科は試験教科に含まれ、家庭科教育は盛んである。表氏のスライドからは、実習の授業に真剣に取り組む生徒と教員の姿がうかがえた。
英国・北アイルランドでも、家庭科は、7~9年生の男女ともに必修科目として教えられている。中等教育の修了資格試験の教科として、家庭科は、筆記試験並びに実技試験が課されている。職業教育のための選択科目として採用している学校もある。表氏のスライドからは、アイルランド共和国と同様に、生徒たちが真剣に実習している姿が伝わってきた。
ドイツでは、1990年代までは多くの州で、「手芸」「家庭科」「被服製作」という教科が設置されていたが、男女別の教育を改める過程で、「手芸」が廃止され、「消費者教育」などに名称変更されている。現在は僅かな州でのみ、「家庭科」あるいは「被服製作」が教科として位置づけられている。
フィンランドでは、家庭科は、7年生は必修課程、8・9年生では選択科目として位置付けられている。初等教育、中等教育ともに、食教育を中心に組み立てられているのが特徴である。先生へのインタビューの中で、家庭科を教える理由として、「年齢の低い子どもも家事や食生活に興味を持っており、この興味が家事への参加を促し、年齢が上がっても家事に熱心になることにつながる」という話があった。ここから、家庭科教育の意義に改めて気づかされた。
表氏の報告を受けて、牧野カツコ氏(宇都宮共和大学特任教授)が、諸外国の家政学と家庭科教育の歴史と現状を概観した。アメリカではすでに家政学という名称がなくなり、学校教育における家庭科教育は多様化しているため、家庭科教育が現在どう位置づけられるかを見定めるのは非常に難しいが、家庭科教育が大事にされれば国が変わるのではないか、との考えが述べられた。アメリカをはじめ、家庭科教育が消えていく流れがある中で、逆に日本では家庭科を共学で学ぶことになった。共学で家庭科を学ぶことが「育メン」を増やすなどのエビデンスが出るのはこれからだろう。日本が家庭科教育を必修教科としたことが、子育てをはじめ、社会にどういう影響を及ぼしていくかは、世界的に注目されている。
質疑応答では、家庭科教育に関わる方を始め、たくさんの方々から質問や意見が出て、家庭科教育の可能性と重要性を改めて認識したセミナーであった。
(記録担当:佐野潤子IGS特任リサーチフェロー)
《開催詳細》
【日時】2017年12月2日(土)15:00~17:00
【会場】人間文化創成科学研究科棟408室
【司会】佐野潤子(IGS特任リサーチフェロー)
【ゲストスピーカー】表真美(京都女子大学教授)
【コメンテーター】牧野カツコ(宇都宮共和大学特任教授)
【主催】ジェンダー研究所、「家族とキャリアを考える会」
【参加者数】17名