IGSセミナー報告「ブリテンにおける「リベラル・フェミニズム」再考」
2018年10月1日、IGSセミナー「ブリテンにおける「リベラル・フェミニズム」再考」を開催した。
フェミニズムの歴史では、18世紀末から20世紀中葉までを、第一波フェミニズム、あるいはリベラル・フェミニズムと総称することが一般的であった。それは公私二元論に無反省に立脚し、男⼥同権、すなわち平等な法的権利の獲得を目指す運動と見なされてきた。しかしブリテンに目を転じてみても、その時期の思想家が⼥性への法的権利付与を要求した根拠や、同時代の⼥性の隷従状態を批判した内実は、第二波フェミニズムが批判するような、単純な公私二元論を前提にするものではなかった。
そこで本セミナーでは、18世紀末のフェミニズム草創期の思想家から、のちの⼥性参政権運動へと連なる、フェミニズム思想の多様な諸相を思想史的な視点から丁寧に紐解き、その姿を浮き彫りにするとともに、現代におけるフェミニズム思想への貢献としたいという趣旨で開催した。
第1報告の梅垣千尋(⻘⼭学院⼥⼦短期⼤学)「ウルストンクラフトのフェミニズム:理性・徳・知識における平等」では、『⼥性の権利の擁護』における「根本的な原理」としての「理性と徳と知識」の3点から、その平等論を探るものであった。
第2報告の板井広明(IGS特任講師)「ベンサム功利主義における⼥性・結婚・両性の平等」では、『道徳と⽴法の諸原理序説』などのテクストから析出されるあるべき夫婦の法的・社会的関係は平等性にあり、いわゆる公私二元論を批判していた点が確認された。
第3報告の土方直史(中央大学)「1820年代のイギリス・フェミニズムと功利主義:Frances WrightとAnna Doyle Wheelerを中心に」ではライトはオウエンからの影響、トンプソンと『人類の半数である⼥性の訴え』を共同で執筆したウィラーは既存の結婚制度に代替されるべき協同思想の提唱などを行なっていたことが指摘された。
第4報告の山尾忠弘(学振特別研究員(慶應義塾大学))「J.S.ミルとウィリアム・トンプソン:リベラル・フェミニズム概念の批判的再検討にむけて」では、安全という原理を⼥性にも適用すべきであるという点でトンプソンとJ.S.ミルは一致しつつも、「⼥性解放論の道筋は協働社会、すなわち社会主義の実現と⼥性の解放を同一視するかどうかという点において著しい対照をなしている」ことが指摘される。
第5報告の舩木惠⼦(武蔵大学)「ヴィクトリア時代の経済発展とフェミニズムの理論化」では、19世紀中葉以降のブリテンの経済発展と、フェミニズムの観点から政治経済学を実証的に捉えようとしたマーティノーを取り上げ、またフェミニズムの思想的源泉について、ボディションらのフェミニストの思想分析が行なわれた。
コメンテーターの後藤浩⼦氏(法政大学)は、「19世紀ブリテンの「リベラル・フェミニズム」の歴史的背景」として、18世紀末のフランスの婚姻制度とアイルランドの⼥性の就業状況などを素材にコメントし、小沢佳史氏(九州産業大学)からは各報告についてのコメントがあった。5 報告のうち、3報告が昨今注目され始めている「功利主義フェミニズム」に関することでもあり、功利主義とフェミニズムの捉え返しを中心に質疑応答が行なわれ、19世紀ブリテンのフェミニズムの多様な姿が浮き彫りになったセミナーであった。
記録担当:板井広明(IGS特任講師)
《イベント詳細》 【日時】2018年10月1日(月)13:00〜17:30 梅垣千尋(⻘⼭学院⼥⼦短期⼤学教授)「ウルストンクラフトのフェミニズム:理性・徳・知識における平等」 |