IGS通信

国際シンポジウム「開発・教育・ジェンダー」

IGS国際シンポジウム「開発・教育・ジェンダー」

2021年2月1日(金)、国際シンポジウム「開発・教育・ジェンダー」を開催した。これは、ジェンダー研究センター(現ジェンダー研究所、以下、IGS)がアジア工科大学院大学(AIT)と連携して始めた国際教育プログラムであるAITワークショップが、2020年度で20年目となることを記念したものである。

まず「AITワークショップを振り返って」と題したコーナーでは、現在、AITワークショップの統括を担当している板井広明(お茶の水女子大学IGS)から、IGSが主催してきたワークショップのプログラム概要や、年度毎のテーマ紹介、プログラムの意義などの報告を行なった。次にAIT側の統括である日下部京子氏(アジア工科大学院大学)が、AITとIGSがこのワークショップを実施することで共に歩んだ20年を振り返り、その意義と成果を報告した。まずAITとIGSとの関わりの歴史として、このワークショップには歴代のジェンダー研究センター長が関わっていたこと、両大学とも国内初のジェンダー研究・高等教育機関であり、大学院生同士、あるいは教員との交流が、単なる交流事業にとどまらず、東京とバンコクをフィールドにした、研究教育を主眼にした学び合いの場としての重要性があったことなどが報告された。

写真左から:板井広明・日下部京子・大類由貴・ソン・チャンフイ(報告)

次に「AITワークショップから得たもの」と題したコーナーでは、AITワークショップに参加した2名がその経験と意義を語った。まず大類由貴氏(ユネスコ・アジア文化センター)は、出発前の事前準備で受講したフィールドワーク方法論演習での知見をバンコクで実践できたことや、AITでの授業やセミナーで、AIT院生や教員との議論や助言で、研究テーマが深められたことなどが報告された。ソン・チャンフイ氏(アジア工科大学院大学)からは、東京でのフィールドワークを中心に、異文化体験をしつつ、自身の研究テーマである男性性の研究を深められたことが報告された。

大崎麻子氏(NPO法⼈Gender Action Platform理事)からは、「国際協調におけるジェンダー平等目標〜ジェンダー主流化実践」と題した講演を行なってもらった。まずジェンダー平等と女性と少女のエンパワーメントに関する理念の背景として、国連憲章や世界人権宣言に始まり、1994年のカイロ宣言や1995年の北京宣言及び行動綱領を経て、ジェンダー主流化の動きが現われ、MDGsやSDGsに受け継がれていった歴史が紐解かれた。

ジェンダー平等は、1945年以降は道徳的規範・普遍的価値として、2000年代には経済的な規範として、2015年以降は持続可能な規範として位置づけられてきたことから、SDGsでの原理の一つとしてもジェンダー主流化が謳われることになった。さらに女性がDVを含む性暴力から保護されること、女性が担う無償ケア労働に関して予算がたてられること、女性が意思決定の場に参加することが重要であり、これらに取り組むには、家族や地域社会、学校、メディアなどにおける社会規範の変容を含めて、政治的法的な制度枠組みをジェンダー主流化という観点から考えることが重要であるという。

民間セクターの動きとしては、企業が「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを経営の核に位置づけて自主的に取り組むことで、企業活動の活力と成長を促進するための行動指針を示すこと」を対象とした「女性のエンパワーメント原則」(2010年)が重要であり、そこでは①企業トップによるリーダーシップ、②職場におけるジェンダー平等、③従業員の健康、ウェルビーイング、安全、④キャリアアップのための教育と研修、⑤サプライチェーン・マネジメントとマーケティング、⑥地域での社会貢献活動、啓発活動、⑦進捗の測定と報告の7原則が謳われている。昨今では、投資先の選択として、取締役会でのジェンダーバランスなどに関心が寄せられるようになり、ジェンダー平等への取り組みがより進んできている点も挙げられた。

またUN WomenとILO、EUによる「WE EMPOWERプログラム」では、民間セクターにおけるジェンダー主流化を後押しするナレッジベースのネットワーク構築が目指され、そのためのDV対応の強化といった緊急的・救済的な施策と、コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会が設置されて中長期的な政府の政策実践も行なわれている。また兵庫県豊岡市という地方自治体の実践では、市民主体の政策づくりの一環としてジェンダーギャップ解消戦略策定委員会が作られ、キャパビル(能力構築支援)およびアドボカシー(問題について声を上げる)の実践がなされてきたという。

写真左から:大崎麻子(講演)、高松香奈・大橋史恵(コメント)、申琪榮(閉会挨拶)、平野恵子(司会)

講演に対する「コメント」として、高松香奈氏(国際基督教大学)は、講演が主としてトップレベルに焦点を合わせていたことへの補足として、多様な現実に切り結ぶフィールドワークにおける自らの目線がいかなるものであるかに注意を促し、大橋史恵氏(お茶の水女子大学IGS)は、開発におけるジェンダー問題などについてセンシティブな感性でもって自らの研究のアプローチや立ち位置をしっかり考えることが重要であると指摘した。

最後に、AITワークショップの初期から関わっていた申琪榮氏(お茶の水女子大学IGS)が、このワークショップの意義を再確認した閉会挨拶でシンポジウムを締めくくった。

記録担当:板井広明(IGS特任講師)

《イベント詳細》
国際シンポジウム
AITワークショップ20年記念シンポジウム「開発・教育・ジェンダー」

【開催日時】2021年2月1日(月)16:00~18:00
【会場】オンライン(zoomウェビナー)開催
【報告】
板井広明(お茶の水女子大学IGS特任講師)
日下部京子(アジア工科大学院大学教授)
大類由貴(公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター プログラム・オフィサー)
ソン・チャンフイ(アジア工科大学院大学博士課程)
【講演】大崎麻子(NPO法⼈Gender Action Platform理事、関⻄学院⼤学総合政策学部客員教授、兵庫県豊岡市ジェンダー・アドバイザー)
【コメント】
高松香奈(国際基督教大学上級准教授)
大橋史恵(お茶の水女子大学IGS准教授)
【閉会挨拶】申琪榮(お茶の水女子大学IGS教授)
【司会】平野恵子(お茶の水女子大学IGS特任リサーチフェロー)
【言語】日本語・英語(同時通訳あり)
【参加者数】77名