IGSセミナー(学内限定)「教育とジェンダー、世界と日本:2030年にむけて今日の課題」
2021年12月1日(金)IGSセミナー「教育とジェンダー、世界と日本:2030年にむけて今日の課題」がオンライン開催された。
はじめに、国連の活動の原点にもなる「世界人権宣言」について触れられた。特に教育の重要性として、単に教育を受ける権利だけでなく、教育は人権を尊重する公正な社会の構築へのプロセス、そして平和維持に貢献するものであると強調された。そして、教育における女子・女性差別の撤廃、そしてジェンダー平等は国際社会での共通の認識であることも確認した。
1990年以降の国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)による「万人に教育を」運動の中では、男女教育の格差が解消されることはなかった。女子の教育参加阻害の背景として、家事・育児などの無償労働を女子が行なっていること、伝統的な社会規範の影響、女子への配慮に欠けるトイレなどの教育設備など、学校での安全性、学校空間でのジェンダー平等意識の欠如など様々な要因が挙げられる。2000年代以降、ダカール「万人のための教育(Education For All: EFA)」会議では、男女間格差ではなく、教育におけるジェンダー平等について包括的な戦略を試みるようになる。ジェンダー平等とは、男女の違いを認めて、その違いも同じ価値あるものとして扱うことを示す。また、教育におけるジェンダー平等とは、単に数の上での平等ではなく、教育を受ける機会、受ける過程、受けた結果での平等であり、教育の平等を測る具体的な指標も作成された。初等教育における男女間格差に関しては前進はあったものの、それでもなお、2015年までの初・中等教育就学率の男女間格差の解消は達成されず、女性の成人識字率の低さや国内での地域格差、性暴力やハラスメントの問題も浮き彫りになった。さらに、ジェンダー平等といった質的な経験をどう測定するのか、また女子だけではなく男子へのジェンダー役割期待や貧困による男子の中退の増加、といった新たな課題も明らかになった。
女子教育が普及しない大きな理由として、政府やトップレベルのコミットメントの欠如がある。人権としての教育という意識が弱く、ジェンダー平等政策が他の政策に比べ重要視されず、さらには実施されても小規模化、周辺化されてしまう。ポスト2015の持続可能な開発目標(SDGs)の中では教育におけるジェンダー格差、男女間格差をなくすことが強調されているが、菅野氏は、ジェンダー平等に焦点が当てられていないことに警鐘を鳴らす。ジェンダー格差解消という数の平等だけに囚われてしまうことは、教育におけるジェンダー平等とは言い難い。また、ジェンダー平等が、「持続可能な開発のための教育の普及に必要な知識と技術」として語られてしまっていること、そしてダカールEFA比べて、教育におけるジェンダー平等を達成する意識が薄れてしまっていることも問題だと指摘した。ユネスコの「持続可能な開発のための教育」の中でも、持続可能性とジェンダー平等の接点は不明確である。菅野氏は、持続可能な共生社会とジェンダー平等を実現するには、変革志向のエンパワメント教育が必要だと述べる。単に女性を意思決定の場に参加させることだけでなく、「変革の担い手」の主体として教育していくことが求められている。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に向けて、現状維持の教育をどう変えていけるのか、ジェンダー政策立案や過激化する国際対立への対処、そしてネットワークの構築など課題は山積みであることが確認された。
最後に、COVID-19が教育とジェンダーにどう影響したのかが述べられた。学校閉鎖によって学習機会の喪失や、女子の健康・福祉・保護といった学校役割が機能しないということが挙げられる。そればかりか、リモート学習にアクセスできるかどうかにも男女間で格差があること、貧困家庭において、学校に行かなくなった女子は家事手伝いをさせられてしまうなどジェンダー格差は一層深刻化している。一方で、包括的な性教育のデジタル配信や妊娠した女子生徒がリモート学習を通して教育を受け続けることができたというデジタル化の成果の例も報告されている。コロナ渦での報告はまだまだ少ないが、今後学習にアクセスできない困難な子供たちをサポートしていく多様で、包括的な取り組みが求められている。
本セミナーは、授業「国際社会ジェンダー論」(博士前期課程)の一環として実施され、国際協力や国際機関でのキャリア形成を考える学生にとって良い機会になった。
記録担当:花岡奈央(お茶の水女子大学大学院博士前期課程)
《イベント詳細》 【日時】2021年12月1日(水)13:20~14:50 |