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7/16セミナー「生理の貧困」

2021. 7. 16 IGSセミナー(生殖領域)「生理の貧困」 Period Poverty

日時:2021年7月16日(金)  17:00~19:00(JST)/09:00~11:00(GMT)
オンライン開催(ZOOM Webinar)

豊かに見える現代社会の中で、経済的な理由から、生理用品を手に入れることに苦労している女性たちがいます。また月経の影響を受けて、大事なチャンスを逃す女性も少なくありません。月経はほとんどの女性にとって一生のうちの一定の期間、ほぼ定期的に経験する身近な生理学的現象であるにもかかわらず、私たちはこの月経に関連する問題に十分に注意を払ってきたでしょうか。
本セミナーでは、最近マスメディアなどでも取り上げられることの多い、この「生理の貧困」をテーマに、イギリスの研究者および映像制作のスペシャリストであるカースティン・マックロード氏と、日本の研究者であり活動家でもある長島美紀氏を招いて、この月経の影響でさまざまな問題をかかえる女性たちに目を向け、ジェンダーの視点から議論します。

講師 カースティン・マックロード氏 (エディンバラ・ネピア大学)
「生理の貧困をテーマにしたドキュメンタリーフィルム“Bleeding Free”から」
 

長島美紀氏 (プラン・インターナショナル・ジャパン)
「生理からみる日本のジェンダー課題:機会損失・スティグマをめぐる私たちの問題」

司会・討論 仙波由加里(お茶の水女子大学、IGS )

言語:英語(日本語逐次通訳付き)通訳者:松村直樹(Colts Works) 

参加申込(要事前申込・登録制、参加無料):ZOOM参加申込フォーム
*当日、セミナー参加の際にはZOOM WebinarにアクセスするためのZOOMアカウントが必要です。

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研究報告要旨

「生理の貧困をテーマにしたドキュメンタリーフィルム“Bleeding Free”から」
カースティン・マックロード

このプレゼンテーションでは、私たちが作成し、つい最近、初上映したドキュメンタリー映画、『Bleeding Free』と、その映画がテーマとしている生理の貧困に関連する現状や課題をいくつか提示します。この映画はエディンバラ・ネピア大学の学生と一緒に制作を手掛けたもので、その中心となっているテーマは、貧困が若い女性や少女たちの教育と人生のチャンスにどのような影響を与えているかです。

この映画は、大学に設置する生理用品ディスペンサーを設計した3人のスコットランド人学生の活動を軸に描きました。スコットランドには生理用品を必要とするすべての女性と少女が生理用品を利用できるようにするという政府の方針がありますが、この方針に影響を受けての活動でした。この映画では、政府の政策レベルから、教育機関内で選挙運動をしている学生や女子学生まで、生理の貧困に対する意識を高めるためのさまざまなアプローチを取り上げています。女性のサッカー選手の経験や、高レベルのスポーツをする女性たちが月経にどう対処しているかなど、女性と少女の日常の経験に焦点を当てて描いています。またこの映画の中では、ウガンダでの活動も取り上げました。ウガンダで、女子に再利用可能な生理用ナプキンの作り方を教える学校でのプロジェクトから、女性が生理用パッドを製造し販売する事業の立ち上げまでを支援するコミュニティファシリテーターや高齢者の参加も含め、月経に関する健康教育へのサポート等さまざまなアプローチを紹介します。映画を通してこれらのたいへんな時代の貧困の経験からは、あらゆるイニシアチブがコミュニティ内に組み込まれ、男性を巻き込みながら、広いコミュニティの賛同を得て、永続的な成功と影響力を持つ必要があるという重要なメッセージを発信します。


「生理からみる日本のジェンダ—課題~機会損失・スティグマをめぐる私たちの問題」
長島美紀

本報告では、プラン・インターナショナル・ジャパンで、2021年3月に実施した調査結果を紹介し、その結果に基づいて、日本における生理をめぐる現状と課題について提起します。本研究調査プロジェクト「日本のユース女性の生理をめぐる意識調査」では、日本の15~24歳の女性約2000人を対象に、生理と生理に関係する日常生活についての調査を実施しました。調査では10人に3人が「収入が少ない」「生理用品が高額」「親が買ってくれない」などの理由で、生理用品を購入できなかったり、ためらったりした経験があることが分かりました。生理用品や生理に関連する低用量ピルや痛み止めなどの薬の購入は、交際費や交通費、美容代などに比べると優先順位が低いことも明らかにされています。

また、2人に1人が生理痛に苦しみ、10人に3人が生理で学校・部活・職場を遅刻・欠席・早退した、機会損失を経験していました。初潮を迎えたときに処理方法を教えたのは多くが「母親」であり、相談したい相手も「母親」との回答が多く見られます。このことは米国の調査で示されている、公に生理を語ることができない日本の現状にもつながると考えられます。こうした本調査の結果を紹介しながら、生理の影響を受けて日本の女性たちが大事な機会を損失したり、月経に対するスティグマを抱えている問題について、述べたいと思います。

登壇者紹介

カースティン・マックロード氏は、エディンバラ・ネピア大学の映画・テレビ学部の准教授であり、BA(Hons)テレビのプログラムリーダーを務めている。彼女は、映像人類学、テレビ放送、コミュニティメディア制作のバックグラウンドを持ち、研究対象は、コミュニティ、参加型および代替メディア、社会的影響のある映画製作、ジェンダー、地域の知識などである。 マックロード氏は、AHRC / GCRFが資金提供するプロジェクト、Pacific Community Filmmaking and Gender, Impact and Public Engagement(2021-22)のリーダー、およびESRCが資金提供するプロジェクトの利益相反委員会の委員であり、COVID-19の発生時の亡命希望者と難民を収容するための一時的な宿泊施設の使用について、デジタル手法と映画製作のアウトプットという方法を採用して調査している。彼女は、エディンバラ・ネピア大学の学生や同僚と一緒に作成した月経の健康教育と生理用品へのアクセスに関するドキュメンタリー映画『Bleeding Free』(2021)のエグゼクティブプロデューサー兼編集プロデューサーも務めた。


長島美紀氏は、公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパンのアドボカシーグループのリーダーを務めている。政治学博士。早稲田大学大学院で先進国の難民受け入れ政策を研究した。なかでも、FGM(女性性器切除)を理由に難民認定申請をする事例についての研究をすすめながら、UNHCR駐日事務所や難民支援を行うNPOでインターン/リサーチャーとして活動にかかわった。その後もさまざまなNGOや財団の運営や広報・キャンペーン、事業運営、政策提言活動に従事してきた。プラン・インターナショナル・ジャパンは、政策提言事業、特にジェンダー主流化、「女性の社会での活躍」を中心に提言活動を行っており、長島氏は同組織のアドボカシーグループのリーダーとして、また研究者として活躍している。本報告にも関連するプラン・インターナショナル・ジャパンが実施した『日本のユース女性の生理をめぐる意識調査』にも、長島氏は研究代表としてかかわった。(https://www.plan-international.jp/activity/pdf/0413_Plan_International_Ver.03_01.pdf).

《代表的著作》
長島美紀(2011) 『FGM(女性性器損傷)とジェンダーに基づく迫害概念をめぐる諸課題―フェミニズム交際法の視点からの一考察』, 早稲田大学モノグラフ.

主催:お茶の水女子大学 ジェンダー研究所