IGS通信

IGS研究協力員研究報告会

IGS研究協力員研究報告会

2020年度、お茶の水女子大学ジェンダー研究所には、山根純佳と佐野潤子が研究協力員として在籍した。ジェンダー研究所は在籍期間中に自身の研究紹介も兼ね、研究報告することを義務付けているが、この2人の研究協力員が、2021年3月11日にオンラインで、主に学内研究者に向けて自身の研究についてそれぞれ報告した。そして、参加者とともに2人の研究テーマについて討論した。

1人目の報告者の山根純佳は「ケア・家事労働の市場化はジェンダー平等を実現するか」というタイトルで報告した。ケア・家事労働の脱家族化はジェンダー平等の主要課題であるが、今ではこれらが「市場化されたサービス」となり、これらを購入するという新自由主義的な解決が主流になりつつある。しかし、世帯の収入によってこうしたサービスの購買力の階層格差を生み、サービスの購入が難しい低所得世帯では、かつてよりもケアや家事労働が家族への負担となってきている。特に女性がそれらを担う傾向が強いことから、女性間の格差や女性労働者の脆弱化にもつながっている。報告の中では諸外国のケアや家事労働に対する現金給付と市場化の現状を紹介し、特にスウェーデンでは家事サービス購入への税額控除が実施されるようになり、ケアや介護において同じケアのニーズを持ちながらも、収入によって利用できるサービスが異なるため、世帯収入の格差によるケアや家事の質や量に変化が起こっている現状を紹介した。日本の介護保険制度などケア・家事の市場化政策も、国民の誰もがケアや家事労働のサービスを利用できるように設計されている制度ではないため、個人間や男女の間の格差をさらに広げることになり、制度設計自体に問題があると結論づけた。

2人目の報告者の佐野潤子は、「長寿社会における女性の金融行動(資産管理、資産選択、資産運用) ―日本証券業協会調査からの考察―」というテーマで報告した。長寿社会において、女性の平均寿命は男性に比べて約6年長く、それは女性のほうがより経済的支援(資産)が必要であることを意味している。そのため女性自らの資産管理は重要であり、佐野は女性の金融行動(資産管理、資産選択、資産運用)について、日本証券業協会「証券投資に関する全国調査」(2018年)から分析を試みた。佐野は金融行動の男女差の要因や証券投資を必要と思う人と思わない人の違いは何かに焦点をあて、女性のほうが金融教育を受ける経験が少なく、金融リテラシーも男性よりも劣る傾向があることや、さらには、女性のほうが資産運用などでリスクを避ける傾向がみられることが様々な研究結果で指摘されていることを紹介した。その上で佐野は、男女差よりもむしろ、正規雇用であるか非正規雇用であるかなどの雇用形態のほうが、資産運用や資産管理の意識により影響を及ぼすのではないかと述べた。そして、早い時期から家庭科教育等を含む学校教育の中で金融教育を行うことが、人々や国の将来により利益をもたらす可能性があることに言及した。

二人からの非常に興味深いテーマとそれに関連する問題提起に、参加者の間からも様々な質問やコメントがあがり、非常に意義のある討論を展開することができた。そして最後にジェンダー研究所所長である戸谷陽子教授より報告会についての総括の言葉が述べられ、2時間の報告会が閉会した。

記録担当:仙波由加里(IGS特任リサーチフェロー)

《開催詳細》
【日時】2021311日(木)14:0016:00
【会場】オンライン(zoom)開催
【報告】
山根純佳(実践女子大学准教授)
「ケア・家事労働の市場化はジェンダー平等を実現するか」
佐野潤子(慶応義塾大学特任講師)
「長寿社会における女性の金融行動(資産管理、資産選択、資産運用) ―日本証券業協会調査からの考察―」
【司会】仙波由加里IGS特任RF
【挨拶】申琪榮(IGS教授)
【コメント】戸谷陽子(IGS所長)
【使用言語】日本語
【参加者数】26名
【開催案内】https://www2.igs.ocha.ac.jp/events/2021/03/0311/