IGS通信

セミナー「『不思議なクニの憲法』上映会」

IGSセミナー報告「『不思議なクニの憲法』上映会」
(東アジアにおけるジェンダーと政治研究プロジェクト①)

ジェンダー研究所『東アジアにおけるジェンダーと政治』研究会は、2017年度、憲法改正を取り上げたセミナーを、2回、企画開催した。その第⼀回として、2017年5⽉11⽇(⽊)、監督の松井久⼦⽒と、元外交官で評論家の孫崎享⽒を特別ゲストに迎え、「『不思議なクニの憲法』上映会」が開催された。

映画上映後は、申琪榮IGS准教授がコメントを述べ、松井⽒、孫崎⽒に加え、来場者らが、⽇本の政治情勢と、とくに若い世代の改憲問題についての関⼼の薄さについて、ディスカッションを⾏った。司会は、板井広明IGS特任講師が務めた。

申琪榮IGS准教授は、憲法改正に関する議論が、これまでもっぱら国の安全保障や9条を中⼼にしてきたが、憲法改正案は9条のみならず、13条や24条のような個⼈や家族に関する条項も対象になっていると指摘した。『不思議なクニの憲法』は個⼈の尊厳をした⽀えとしてきた憲法条⽂を、⼈々がどのようにとらえて、どのように活かしているのかに焦点を当てた。とりわけ、多様な⼥性達の声を広く拾い上げている点で特徴を持つと評価した。

松井監督は、まず、韓国のソウル⼤学でも2⽉に同様の上映会を開催したことに⾔及し、⽇韓の若者の政治に向き合う姿勢の「熱さ」の違いについて述べた。韓国では、⽇本の憲法改正問題について描いた映画であるにも関わらず、多くの若者が⾮常に熱⼼に鑑賞し、上映後、活発な議論が繰り広げられたという。⼀⽅、⽇本では、各地で上映会をいくら開催しても、来るのは中⾼年がほとんどであり、若い世代の関⼼の薄さが⽬⽴つという。

元外交官である孫崎⽒は、⽇本の防衛と憲法という視点から、とくに北朝鮮情勢と憲法9条について述べた。現政権である安倍政権は、北朝鮮危機を理由に、憲法9条の改正と、そのための国⺠投票法改正を⽬指しているが、憲法9条を改正したところで、北朝鮮危機が去るわけではない。外交問題が、憲法の改正で解決するわけではないからである、と述べた。

その後、来場者からの発⾔を求め、ディスカッションが展開された。松井監督から、若い世代の意⾒を聞きたい、との要望が出され、まず若い⼥性の来場者が、映画の感想を述べた。映画に描かれていることすべてが、なにもかも、初めて知ることであり、ただただ驚くばかりで、憲法や⼈権について考えるまでに⾄らない、⾮常に混乱した気持ちである、という率直な感想を述べた。また、中国出⾝だという来場者からは、⽇本が憲法を改正すると、アジア情勢が不安定になるのではないか、という意⾒が出された。

中⾼年の来場者からは、現在の⽇本の政治情勢に危機感を持っているが、改憲問題について、とくに若い世代に関⼼を持ってもらうには、どうしたらいいのだろうか、という問いが出された。これに対し、松井監督は、1⼈1⼈に「⾃分ごと」として、改憲問題について考えてもらいたい、というのが、『不思議なクニの憲法』を制作した最初の動機であり、まさに、⾃分⾃⾝で憲法の問題を考えてほしい、その⼿がかりとして『不思議なクニの憲法』上映会を、⾃⾝で企画開催していただくのはどうだろうか、という提⾔が述べられた。

タイムリーなテーマの上映会であったため、上映後のディスカッションは、⽩熱したものになった。来場した若い世代の聴衆にとっては、⾮常に刺激的なセミナーであったと⾔えるであろう。


《上映作品情報》
ドキュメンタリー映画『不思議なクニの憲法』
監督:松井久子
製作・著作:株式会社エッセンコミュニケーションズ
http://fushigina.jp/

《イベント詳細》
IGSセミナー「『不思議なクニの憲法』上映会」(東アジアにおけるジェンダーと政治研究プロジェクト①)

【⽇時】2017年5⽉11⽇(⽊)15:00〜18:30
【会場】共通講義棟2号館201室
【司会】板井広明(IGS特任講師)
【特別ゲスト】
松井久⼦(映画監督)
孫崎享(元外交官・評論家)
【コメンテーター】申琪榮(IGS准教授)
【参加者数】56名