IGS通信

シンポジウム「⼥性による⼥性のための経済学事始め」

IGSシンポジウム報告「⼥性による⼥性のための経済学事始め」

2018年2⽉19⽇、研究プロジェクト「経済学と⼥性〜理論・思想・歴史」研究会(⾜⽴眞理⼦IGS教授担当)企画のシンポジウム「⼥性による⼥性のための経済学事始め」が開かれた。2017年2⽉22⽇のIGSセミナー「⽇本における⼥性と経済学」の後継企画である。

シンポジウムの冒頭、⾹⻄みどり⽣活科学部⻑、⽯井クンツ昌⼦IGS所⻑・⽣活社会科学研究会会⻑による挨拶があり、⾜⽴眞理⼦IGS教授による司会の下、報告者3名、討論者2名により活発な議論が⾏なわれた。

写真左から:板井広明・斎藤悦子(討論者)、松野尾裕・八幡(⾕⼝)彩⼦・上村協子(報告者)、足立眞理子(司会者)

第1報告は松野尾裕⽒(愛媛⼤学)による「松平友⼦の家事経済学:事始め」である。1922年に東京⼥⼦⾼等師範学校で「家事経済」を講じた松平友⼦が、1925年に『家事経済学 家庭⽣活の経済的研究』上下巻を公刊したことが、⽇本における⼥性による⼥性のための経済学事始めの起点となるという視座から、松平が家事経済学を構想する経緯とその意義について報告があった。

松平が⾔う家事経済(=家族経済)とは、国家経済(=財政)と企業経済にならぶ国⺠経済の1領域であり、しかも「家庭⽣活の経済的研究」のためには、経済学だけでなく、統計学や会計学、法律学や社会学の知⾒を導⼊するという視点があったことが指摘された。しかも婦⼈の経済的⾃⽴を考えていた松平が、ILOの男⼥同⼀価値労働同⼀賃⾦などの原則を視野に収めつつ、経済学に男⼥の収⼊格差と⽣活時間についての考察を含めていた点に意義があるという報告であった。

第2報告は⼋幡彩⼦⽒(熊本⼤学)による「松平友⼦と⽇本における家政学の展開」である。アメリカにおけるhome economicsの誕⽣や御船美智⼦や⻲髙京⼦らによるその後の家政学との展開にも⾔及しつつ、松平の家政学の内実に⽴ち⼊って検討した報告で、その意義を、⽣活規範学および家庭⽣活論(家庭の機能論およびライフサイクル論)としての家政学と捉え、「家政学の中核概念である「家庭」が、社会の中でどのような役割・機能を果たすのか、可視化、概念化に多⼤な貢献をした」ことにあるとする。

第3報告は上村協⼦⽒(東京家政学院⼤学)による「東京⼥⼦⾼等師範学校に探る⾦融リテラシーの起源 ⾦融とジェンダー」である。⾦融とジェンダーという問題系を、松平友⼦、伊藤秋⼦、御船美智⼦が遺した3つの循環図から分析したもので、松平友⼦『家事経済学』第4篇「会計論」での「家事会計」を、「⾃分⾃⾝の⽇常を科学的に捉える・記録する・分析する⽅法ではないか」として、松平による、さらなる教科書作成や教育実践を検討して、現代に連なる⾦融リテラシー教育の流れの中でその意義を明らかにしている。

三⽒による報告の後、討論者の斎藤悦⼦⽒(お茶の⽔⼥⼦⼤学)からは、松野尾報告には、家事経済学の成⽴の位置づけ、東京⼥⼦⼤学での同時期における男性による⼥性のための経済学教育をどのように評価するのかという点、⼋幡報告については、家事経済学から家政学原論への展開はいかなる形で⾏なわれたのか、消費者科学などの名称変更は家政学にとっていかなる意味をもつのかという点、上村報告については、⾦融リテラシーにおける⽣活者の視点とは何か、家計簿記についての詳細についてコメントがあった。

板井広明⽒(IGS特任講師)からは、松平友⼦が最初の⼥性経済学者であるということの制度的・学問的意味について、また家事経済学における⽣活の合理化という科学主義的な⽅向性は⽣命の再⽣産と⽭盾しないのか、またhome economicsへ影響を与えた「life」を重視するラスキンなどからの影響は家事経済学においては⾒られないのかという点についてコメントがあった。

松野尾⽒からは、松平『家事経済学』に現われている、男性⽀配的な経済学を体系的に整理して、⾃家薬篭中のものにしている点に意義があり、世界的にも揺らぎ始めていた経済学の体系に家事経済を独⾃に、しかも学問越境的に位置づけたところが重要であるというリプライがあった。⼋幡⽒からは、松平による家政学原論の構築は、他分野の原論を参考に、学史論・学派論・⽅法論からなるものとして⾏なわれたという説明があり、名称変更についてはアメリカのhome economicsにおける問題として⾔及したとのことであった。上村⽒からは、消費組合運動との関連で、天野正⼦の「⽣活者」視点からの⾦融リテラシーの在り⽅があったということ、そして消費者でなく、⼤熊信⾏が使うような「⽣活者」概念にラスキンの思想の影響があり、また家計簿記についての受講⽣の反応は概して低調であったというリプライがあった。

その後、質疑応答になり、家事経済学に対する学会内外の反響、家政学の意義と限界、また家政学への展開、主流派経済学に対する家政学の意義、現代における⾦融リテラシーとジェンダーの問題など、活発な議論が⾏なわれた。

記録担当:板井広明(IGS特任講師)

《イベント詳細》
IGSシンポジウム「⼥性による⼥性のための経済学事始め」

【⽇時】2018年2⽉19⽇(⽉)16:00〜19:00
【会場】共通講義棟2号館102室
【司会】⾜⽴眞理⼦(IGS教授)
【挨拶】
⾹⻄みどり(お茶の⽔⼥⼦⼤学⽣活科学部⻑)
⽯井クンツ昌⼦(IGS所⻑/⽣活社会科学研究会会⻑)
【報告】
松野尾裕(愛媛⼤学)「松平友⼦の家事経済学」
⼋幡(⾕⼝)彩⼦(熊本⼤学)「松平友⼦と⽇本における家政学の展開」
上村協⼦(東京家政学院⼤学)「東京⼥⼦⾼等師範学校に探る⾦融リテラシーの起源」
【コメンテーター】
斎藤悦⼦(お茶の⽔⼥⼦⼤学/IGS研究員)
板井広明(IGS特任講師)
【主催】ジェンダー研究所「経済学と⼥性〜理論・思想・歴史」研究会
【共催】お茶の⽔⼥⼦⼤学⽣活社会科学研究会
【参加者数】40名