IGSセミナー報告「フランスの視点からの思想史ワークショップ:家族、社会、ジェンダー」
2020年1月30日(木)に、IGSセミナー「フランスの視点からの思想史ワークショップ:家族、社会、ジェンダー」を開催した。報告は3人のフランス人研究者、ガブリエル・ラディカ(リール大学教授、横浜国立大学客員教授)、アン・ブルノン=エルンスト(パンテオン・アサス大学)、オフェリ・スィミオン(ソルボンヌ・ヌーヴェル大学)からなされ、それに対して、関口佐紀(早稲田大学大学院博士課程)、重田園江(明治大学)、高桑晴子(お茶の水⼥子大学)の各氏からコメントをもらった。
第1報告は、ラディカ「⺠主的家族 vs リベラルな家族:コンスタン、トクヴィル、デュルケイム」で、コンスタンの家族論を「プライヴァシーの保護」、トクヴィルは「家族関係の⺠主化」、デュルケイムは「個人主義および家族機能」という観点から読み解き、国家と市⺠社会の分離などの状況と相即的な、家族の私的領域への位置づけを背景に、それらが家族内の平等化を進めたわけではないことなどをテクストベースに指摘した。
関口氏からのコメントは4点にわたり、リベラルな家族と政府との関係、性の平等と個人の平等の区別、家族の教育的機能、家族制度と3人の思想家が捉える幸福の概念との関係について、なされた。
第2報告は、ブルノン=エルンスト「パノプティシズムから生政治へ:フーコーの法の再検討を通じて」で、フーコーの理論枠組みに、ベンサムのパノプティコン論がどう位置づけられるのかをめぐるものである。とりわけ『監獄の誕生』で示されたベンサムのパノプティコンが有するネガティブな規律的側面と、リベラルなベンサム解釈を行なうベンサム研究者による功利主義理論とパノプティコンの枠組みとの関係を参照しつつ、ラヴァルなどが示している生政治の概念を基礎にしたフーコーの理論的な枠組みに、パノプティコンの図式をはじめとするベンサムの間接立法論をはじめとした法論が関わっていたのではないかという点が指摘された。
重田氏からは、フーコーの規律や生政治の概念の変遷(1975年の『監獄の誕生』では法/規律、1976年の『知への意思』では法/生権力→生政治/規律、1978-79年のコレージュ・ド・フランスでの講義では法/規律/安全のメカニズム)が示され、またベンサムの間接立法論と規律の議論とは異なるのではないかといったことが指摘された
第3報告は、スィミオン「A.D.ウィーラー(1780-1848):生涯と著作、フェミニストの遺産」で、19世紀前半に活躍したウィーラーの、W.トンプソンとの共著『人類の半数の訴え』での明示的な⼥性の選挙権の主張、理論と実践の両立について、オーウェン主義や⼥性のネットワークづくり、海外でのそれらの実践への影響などについて焦点を合わせたものであった。
高桑氏からは、ウィーラーが育ったアイルランドにおけるリベラルな背景、男⼥平等や⼥性の権利などについての彼⼥の急進的な考えの出自、フェミニストとしての遺産の内実について、コメントがあった。
最後に、モデレーターの深貝保則氏(横浜国立大学)からは、今回のワークショップで取り上げられたコンスタン、トクヴィル、デュルケイム、ベンサム、ウィーラーが見ていた社会の違い、また日本での家族やジェンダーに関する明治以降の近代思想の導入の仕方の問題について、『男⼥同権論』や『男⼥異権論』の画像などを示しながら、コメントがあった。
思想史研究の領域ではまだまだジェンダー差が大きく、報告者も討論者も⼥性で占められた今回のセミナーは、その点でも興味深いものだったとのコメントもあり、それぞれの報告に対して、活発な議論が展開されたセミナーでもあった。
記録担当:板井広明(IGS特任講師)
《イベント詳細》 【日時】2020年1月30日(木)13:15〜17:15 |