IGSセミナー「ブリテンにおけるフランス革命論争:バーク vs ウルストンクラフト」
2021年1月22日(金)、「ブリテンにおけるフランス革命論争:バーク vs ウルストンクラフト」と題するセミナーを開催した。ウルストンクラフト『人間の権利の擁護/娘達の教育について』(京都大学学術出版会、2020年)の訳者3人と、ウルストンクラフトが論敵とみなしたバークを専門とする18世紀ブリテンの思想史研究者2人が登壇し、それぞれの視点からの報告とコメントが行なわれた。
後藤浩子氏(法政大学)からは、翻訳に至った経緯とご自身の研究関心、ヘーゲルのフランス革命論から始まり、なぜイングランドでフランス革命が起きなかったのかという点で、イングランドにおける代議制民主主義に関心を寄せ、フランスの一般意志とは異なるタイプの、理性と徳に視軸を置いて教育に期待し、理性と感性を引き離すバークを批判したウルストンクラフトの思想の特徴が指摘された。
梅垣千尋氏(青山学院女子短期大学)はまず、『娘達の教育について』で示された、神の完全性へ向かうための理性の鍛錬や徳の習得や、シャポウン『精神の向上についての手紙』への共鳴、『人間の権利の擁護』での革命論争における「反バーク陣営」の戦う女性表象などに触れた。そして、既存の女性論への批判であった『女性の権利の擁護』が著されるのは、『娘達の教育について』という女性自身による女性論があり、また『人間の権利の擁護』においてバークなどの論敵との戦いの実践があったことが示された。
清水和子氏(英語英文学)からは、通俗的な語彙とアカデミックな語彙とが混在するウルストンクラフトの独特な表現について指摘があった。個々の用語、例えばgothicについて、バークが騎士道精神などの習俗を意味する肯定的な文脈で用いたのに対して、当時の小説で使われた通俗的な語彙としては否定的な言葉であり、ウルストンクラフトも粗野や絢爛ながらも悪趣味さをイメージさせる語彙として用いているという対照など、ほかにgallantry、liberalについてもコメントがあった。
コメンテーターの犬塚 元氏(法政大学)からは、信頼できる翻訳であり、優れた注と解説からなるという評価の後、ウルストンクラフトをバーク、モンテスキュー、ヒュームと対照させつつ、「平等なふりをする不平等な言説」を批判する彼女の議論から「単線的な・目的論的な歴史観」を脱し、思想系譜についてのジェンダー論的リヴィジョンが必要であること、啓蒙の経済中心史観を脱し、騎士道などを文明化の推進力として捉えることが指摘された。
もうひとりのコメンテーターである立川 潔氏(成城大学)からは、ウルストンクラフトの商業社会批判を中心にコメントがあった。とりわけウルストンクラフトが理想としたのは「自給自足をベースにした独立自営農民」の世界であったこと、商業社会で見られる他者による評価ではなく、「誤りなき理性」への服従と、理性の陶冶による徳の獲得が魂の不滅へと至るという「他者による評価から神による評価へ」という独特な宗教観の下で、自由と平等が構想されたという指摘があった。
質疑応答では、ウルストンクラフトを、スミスやペインなど、商業社会における社交や互恵性の位置付けをめぐる問題、騎士道の評価がハンナモアとバークでは真逆ではないかといった理想をめぐる問題、ウルストンクラフトの宗教観の独自性如何など、18世紀の思想史上のさまざまな問題がとりあげられ、活発な意見交換がされた。
記録担当:板井広明(IGS特任講師)
《参考書籍》 |
『人間の権利の擁護/娘達の教育について』 メアリ・ウルフトンクラスト 著 京都大学学術出版会 2020年8月刊 https://www.kyoto-up.or.jp/books/9784814002917.html
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《イベント詳細》 【開催日時】2021年1月22日(金)13:30~16:00 |