IGS通信

セミナー「台湾におけるジェンダー主流化と女性運動の展開」

IGSセミナー報告「台湾におけるジェンダー主流化と女性運動の展開
(2016年度第1回「東アジアにおけるジェンダーと政治」研究会)

台湾はアジアでもっとも「ジェンダー平等」かつ「LGBTフレンドリー」な社会として広く知られている。2017年5月末にはさらに、初の同性婚認可に向けて、大きな一歩を踏み出している。本セミナー講師の福永玄弥氏(日本学術振興会特別研究員)は「ジェンダー平等」と「LGBTフレンドリー」の関係に着目し、クィアのポジションから1990年代以降台湾の女性運動とジェンダー主流化の展開を報告し、これまでの国内・国際政治の動向にも触れながら女性運動が抱えてきた困難に言及した。

1987年の戒厳令解除は台湾の女性運動の大きな転換点となっている。戒厳令下では、国民党の指導による「官製」女性運動が前面化されており、1970年代に党外運動と結びついた「新女性主義運動」は抑圧的な政治環境の中で挫折していた。戒厳令解除後の女性運動は台北市を中心に、政治領域(立法や法改正)が闘争の主要舞台となった。とりわけ1990年代には、国家機構の積極的な介入による公/私領域のジェンダー平等の実現が主な運動方針とされていた。

1990年代後半から行政院婦女権益促進委員会は「ジェンダー主流化(Gender Mainstreaming)」を提唱し、与野党の後押しをうけてフェミニストが起草に関わった一連のジェンダー平等関連立法が次々と可決されていった。このようにジェンダー主流化が急速に推進された要因として、福永氏は台湾の民主化=脱「中国」イデオロギー、及び国際的な可視性を高めようとする台湾の周縁的ポジションを指摘した。LGBT運動も同様の方針で推進してきた結果、「SOGI(Sexual OrientationとGender Identity)」を包摂した「台湾型ジェンダー主流化」が構築されてきた。

一方、フェミニズム流派をめぐる論争と分裂は台湾の女性運動における注目すべき点である。1994年、性解放運動を提唱するフェミニスト何春蕤(ジョセフィン・ホー)氏は、これまでの女性運動の前提とされてきた一枚岩的な「女性」像、及び国家の私領域への介入を批判している。さらに、1997年、陳水扁台北市長の台北市娼妓管理法の廃止宣言がきっかけとなり、台北市で公娼運動が勃発した。その中で、フェミニズム運動の分裂が顕著になり、政府側を支持し、保守的なセクシュアリティ観の持つキリスト系を中心とする「主流派」女性団体と、公娼を支持し、セックスワーカーの労働権を肯定する「性解放派」フェミニストとの対立が深刻になった。

この女性運動の分裂により主流から排除された性解放派のフェミニストや運動家たちは、2000年代にさらなるセクシュアリティをめぐる性解放運動を推進してきた。その成果として、セクシュアリティをめぐる諸問題を法律制度や政策などに取り入れることに成功しているが、保守派からのバックラッシュ運動も大規模化しつつある。

今回のセミナーでは、台湾の女性運動の歴史展開と現状が明確に提示された。文化的・社会的近似性のある日本にとって、台湾の経験はよりジェンダーの社会の実現に向けて参考になる部分が多いと考えられる。アジアで最もジェンダー平等が進展し、LGBTフレンドリーな社会としての台湾の今後の動きは注目に値するだろう。

記録担当:張瑋容(お茶の水女子大学大学院博士後期課程ジェンダー学際研究専攻)

《イベント詳細》
IGSセミナー「台湾におけるジェンダー主流化と女性運動の展開」(2016年度第1回「東アジアにおけるジェンダーと政治」研究会)

【日時】2016年12月12日(月)18:30~20:30
【会場】本館135(カンファレンスルーム)
【司会】申琪榮(IGS准教授)
【講師】福永玄弥(日本学術振興会特別研究員)
【主催】特定非営利活動法人アジア女性資料センター
【共催】ジェンダー研究所「東アジアにおけるジェンダーと政治」研究会
【参加人数】30名