IGS通信

IGSセミナー「日本における女性と経済学」

IGSセミナー報告「日本における女性と経済学

昨今、女性と経済学をテーマにした研究が進展する中、日本における女性と経済学の問題を検討するセミナーを合評会形式で開催した。対象テクストは栗田啓子・松野尾裕・生垣琴絵編著『日本における女性と経済学:1910年代の黎明期から現代へ』(北海道大学出版会、2016年)。経済学教育の歴史、女性経済学者の生活に定位した研究、労働運動フェミニズムなどの論点について、山川菊栄、森本厚吉、松平友子、伊藤秋子、御船美智子、竹中恵美子らの議論を検討した。

セミナーでは、まず合評対象の書籍の執筆者4人が報告を行なった。上村協子(東京家政学院大学、第5章)、栗田啓子(東京女子大学、第2章)、松野尾裕(愛媛大学、第1、4、6章)、生垣琴絵(沖縄国際大学、第3章)の各氏が、自身が執筆した章の内容と展望を報告し、それに対して、池尾愛子(早稲田大学、当日は欠席でコメント文書を板井が代読)、足立眞理子(お茶の水女子大学)、金野美奈子(東京女子大学)の各氏からコメントをしてもらった。

池尾氏は日本経済思想史研究の立場から、明治以前の家道訓や家計概念との連続性を指摘し、足立氏はフェミニスト経済学の立場から、『日本における女性と経済学』で取り上げられた女性経済学者の経済循環モデルの比較検討や経済学批判という視角からコメントし、金野氏は社会学の立場から、家庭に経済学を持ち込むことの問題や、あるいは本書全体が前提にしているジェンダー観を問い直すようなコメントが投げかけられた。また論点提供者として第8 章を執筆している伍賀偕子(元大阪総評オルグ、元関西女の労働問題研究会代表)氏からは、労働運動フェミニズムと竹中理論に関する補足的な話題提供もあった。

その後、リプライや質疑応答となったが、女性という視点が必然的に従来の経済学理論とは異なった理論体系を必要としたこと、その意味で女性が不可視化されていることの告発など、さまざまな論点が取り上げられ、また生前の諸先生のお姿を偲ぶ逸話も紹介され、活発で、心温まる議論が行なわれた。

記録担当:板井広明(IGS特任講師)

《イベント詳細》
IGSセミナー「日本における女性と経済学」

【日時】2017年2月22日(水)13:40~18:00
【会場】本館213号室
【司会】板井広明(IGS特任講師)
【報告】
上村協子(東京家政学院大学教授)
栗田啓子(東京女子大学教授)
松野尾裕(愛媛大学教授)
生垣琴絵(沖縄国際大学講師)
【ディスカッサント】
池尾愛子(早稲田大学教授)[紙面討論者]
足立眞理子(IGS教授)
金野美奈子(東京女子大学教授)
【論点提供者】
伍賀偕子(元大阪総評オルグ、元関西女の労働問題研究会代表)
【参加者数】28名