IGS研究会報告「JAWS(日米女性政治学者シンポジウム)研究交流会」
一般公開の国際シンポジウム「なぜアメリカで女性大統領は誕生しなかったのか?ジェンダーと多様性から考える2016年大統領選挙」(3月18日)に先立ち、「日米女性政治学者シンポジウム(JAWS)」のメンバーと、関連研究者や学内関係者が参加する、IGS研究会「JAWS研究交流会」を企画・開催した。各メンバーがこれまで行ってきた研究成果を共有したうえで、今後の共同研究の発展について議論を交わした。報告と討論は全て英語で行われた。
研究会は、参加者の研究関心や近年の政策課題を勘案したテーマを設定し、午前の第一部「生と医療のジェンダー政治学」と、午後の第二部「ジェンダーと政治的代表性」とに分けて開催した。第一部では、武田宏子氏(名古屋大学教授)と、仙波由加里(IGS特任リサーチフェロー)が発表した(マリアン・パリー氏(デラウェア大学名誉教授)の参加も予定されていたが、悪天候により来日キャンセル)。第二部は、大木直子(本学グローバルリーダーシップ研究所特任講師)、ユン・ジソ氏(日本学術振興会外国人特別研究員)が、それぞれ研究報告を行った。第二部の後に岩本美砂子氏(三重大学教授)のコメントを受けて参加者全員が討論を行った。今回の研究会には従来のメンバーら以外に、日本側から新しい若手メンバーが加わり、一層活気に満ちた議論になった。
田中洋美氏(明治大学准教授)の司会で開始された第一部では、発表予定であったマリアン・パリー氏より事前に送付されていた報告を、参加者の間で共有した。報告タイトルは“Some Possible Scenarios Regarding Health Care Services for Women in the Trump Administration”。オバマ時代に成立した国民健康保険制度がトランプ政権の誕生によってどのように変化しうるかを論じた。さらに、今後の見通しについてもいくつかのシナリオを提示した。結論として、アメリカは連邦制であるため、連邦政府がある政策を大きく変えることがあっても、州政府が独自の政策を施すことが可能であるため、今後健康保険政策が変わっても州政府の政策や保険の対象者によって影響が異なると予測した。
続いて、武田宏子氏は、”Protecting Everyday Life: ‘Everyday Life’ as Political Agenda”と題した発表で、1980年代から1990年代にかけて、「生活」が日本政治においてかつてないほど注目されるようになった背景と、その政治的な過程について分析した。日本政府は、この時期から個人の日常生活のあり方や管理に大きな関心を持つようになり、政府が国民の「生活」を守る主体的役割を受け持つようになった。その過程で政府は、国民のあるべき「生活」について、政府の主張や考え方を様々な言説や政策を通じて社会に浸透させようとした。しかし、そのような主流的な考え方に対抗する勢力もまた登場し、支配する(governing)側と挑戦する側の間で「生活」をめぐる争いは続いていると分析した。
最後に、仙波由加里氏は、”Government Subsidized Project for the Cost of Infertility Treatments as a Population Policy in Japan”と題して、特定不妊治療費助成事業の取り組みと、日本の不妊治療に対する状況の変化について報告した。日本は1980年代後半から、少子化を深刻な社会問題と認識するようになり、1990年代から始まった少子化対策の中で不妊治療支援も含まれるようになった。2001年には不妊相談事業が全国で展開され、2004年には、一定の条件を満たす不妊夫婦に限って、高度生殖補助医療(ART)の医療費の助成が受けられるようになった。開始以来、助成対象の条件は緩和され、利用者数も7.6倍に増え、国の負担額も2004年の推計8億8千万円から2012年には101億1607万円まで増大した。しかし、それでも出生数の減少を食い止めることはできていないばかりか、特に高齢になった女性たちには不妊治療を受けることを促す要因にもなり、国による女性の体へのコントロールを増やす結果にもつながった。
第二部は、申琪榮IGS准教授の司会で、まず大木直子氏が、”How Do ‘Politics Schools’ Promote Women’s Participation in Politics in Japan?”と題して報告を行った。1990年代以降日本で盛んになっている地方政治家や政党の地方組織による政治塾に研究関心を寄せ、政治塾が従来の既成政党による候補者選出とどのように違うのかについて考察した。日本において政治塾とは「政治家の養成を目的とする私塾」とされてあり、「松下政経塾」や「小沢一郎政治塾」、橋下徹前大阪市長の「維新政治塾」、小池百合子都知事の「希望の塾」などがその典型例である。政治塾の目的は、主に直近の選挙に向けた候補者選出や新しい人材発掘であるが、女性や若者のような新しい人材を意識的に集める塾も開かれている。報告では、まず1990年以降に設立された政党や政治家、市民団体などが主催する政治塾を取り上げ、各政治塾の性格と特徴を浮き彫りにした。そして女性議員のリクルートメントモデルを用いて、それぞれ異なる政治塾がどのように女性の政治参加を促しうるのかについて検討した。
最後の報告は、ユン・ジソ氏による”Who Speaks for Women and Why: Evidence of Substantive Representation in the Tokyo Metropolitan Assembly”であった。2000年代以降の東京都議会の本会議と委員会の発言資料を分析し、どのような議員が「女性」関連の政策に関心を持って発言しているのかを考察した。その結果、マイナーな政党や少数会派の議員が男女ともに「女性」関連の発言が多いこと、女性議員の方が全体的に女性やマイノリティーについて関心が高く、議会で発言も多いことが明らかになった。
報告者の発表が終わった後に、討論者と参加者全員が互いに質問やコメントを交わし、多岐にわたる活発な討議が行われた。
《イベント詳細》 【日時】2017年3月16日(木)10:00~15:00 第一部:生と医療のジェンダー政治学 第二部:ジェンダーと政治的代表性 【担当】申琪榮(IGS准教授) |