IGSセミナー(東アジアにおけるジェンダーと政治③)『首相官邸の前で』上映会&トーク
2017年6月19日(月)15:00-18:30に開かれた「『首相官邸の前で』上映会&トーク」では、まず映画の上映を行ない、小熊英二監督によって編集された、2011年3月11日の東日本大震災の記憶と、また311以降に首相官邸の前で行われたデモの映像からなる映画が参加者とシェアされた。
映画上映ののち、映画にも登場し、中心的に取り上げられていた、反原発運動のデモで重要な役割を演じていたMisao Redwolf氏(アクティビスト/首都圏反原発連合メンバー)に映画を振り返ってのこと、またその後のことについてトークがあった。首相官邸の前で行なわれたデモは戦後日本において、団体ではない、個人が参加するデモとしては大規模なものとなった経緯や、IT技術を使いながら、広がりを見せたデモの特徴について、話があった。
映画を監督した小熊氏からは、30年後、50年後、100年後の人に向けて作ったこと、またそういう視点なので、予備知識がなくても観れる映画として、人々の表情といったものを意識して取り入れて作ったことが話され、また公共性空間を占拠し、SNSを使い、団体では個人による集まりが多点的に主導し、3ヶ月ほどで収束する世界的なデモの潮流と重なるようなデモが日本でも起きて、それを分析する必要があるだろうと考えたことにも言及された。
特定質問者として板井広明(お茶の水女子大学IGS)から、それぞれに1つずつ質問がされた。グローバル化、不安定化、情報化という世界的なデモの風潮の中で、官邸前のデモの前後でデモというもの、あるいは、日本社会がどのように変容したのかについて、Redwolf氏に対して質問が投げかけられた。Redwolf氏からはまったく質的に異なる変化があったとの応答があった。それまでのデモでは数百~2千人規模がせいぜいで、組織動員をしても8千人規模でしかなかったものが、原発事故という出来事の大きさが官邸前のデモでの数万人以上という大規模なものに変化させたのだと。
また大熊氏に対しては、歴史を記録するという行為について質問があり、意識形態に適合しないものを意識しておくことを中心に、歴史に残っていないもの、記録されないものとしては、固定観念に当てはまらないものが残りにくいという指摘があった(たとえば、2011年の計画停電の映像がほとんどないこと)。良心的な記者は被災地に行き、東京での抗議活動の取材がなかったのは、日本では個人が集まる大規模なデモが起きるわけがないというステレオタイプがあったためで、そういう意味では、固定観念から自由になり、記録を残すことが重要であり、そのためには、ほかの国の事例や、歴史の事例を知ることが必要ではないかとのことだった。
その後の質疑では、インタビューで取り上げた人物に関する事柄や映画の狙い、311という出来事に対して言葉をどう紡いでいくのかといったこと、さらには記述する概念枠組みについて活発な議論が行なわれた。
日本社会で団体の動員ではなく、個人がSNSを通じて集まり、自然発生的に生じたデモとして特筆すべきものだったことを、同時代的、歴史的に、どのように位置付けるべきなのか、有意義な議論が行なわれたセミナーとなった。
《開催詳細》
【日時】2017年6月19日(月)15:00〜18:30
【会場】人間文化創成科学研究科棟604室
【司会】申琪榮(IGS准教授)
【トーク】Misao Redwolf(アクティビスト/首都圏反原発連合メンバー)小熊英二(監督/慶應義塾大学教授)
【特定質問者】板井広明(IGS特任講師)
【主催】ジェンダー研究所
【参加者数】38名