IGSセミナー「北欧の幼児教育から日本を考える:政治や制度が子どもに及ぼす影響について」
2018年1月17日(水)、お茶の水女子大学にて、IGSセミナー「北欧の幼児教育から日本を考える:政治や制度が子どもに及ぼす影響について」が開催された。ゲストスピーカーに環境教育NGO「サステナブル・アカデミー・ジャパン」代表の下重喜代氏、コメンテーターに本学名誉教授で経済学を専門とされる篠塚英子氏を迎え、北欧の幼児教育の実践例をヒントに、日本の幼児教育について議論した。
まず、下重氏からスウェーデン、フィンランド、デンマークの幼児教育と子育て支援について報告があった。現地の視察で下重氏が撮った130枚を超える写真は、緑深い森の中で元気に遊ぶ子どもたちの姿が大変印象的であった。
スウェーデンでは、1975年に幼稚園と保育園が一元化され、1998年から就学前学校の教育基本指針がナショナルカリキュラムによって明示されている。まず、幼児たちには、五つの平等(男女、民族、宗教、機能の遅れ、性的傾向)について教える。そして、今日は何をして遊ぶかを子ども同士で話し合って決めることなどを通じて、民主主義的な価値観が育まれている。難民の子どもも、スウェーデンの子どもとして、人権を尊重して大切に育てられている。保育教師や保育士は、給与などの待遇も良く、研修や勉強会に参加する機会に恵まれており、市民からも尊敬されている。
フィンランドは、2020年までに世界で最も優れた教育の国となることを目指し、特に幼児教育を重視している。小学校では、国連が推進する「持続可能な開発目標」のポスターが掲示され、ジェンダー平等や環境保護などについての教育が実施されている。
デンマークも、自然に囲まれた教育を行っており、雨の日も外遊びや、散歩に行く様子のスライドがたくさん紹介された。また、アートと教育の融合にも力を入れていた。
最後に、下重氏は「Starting Strong」という幼児教育のスローガンを掲げ、人生のスタートを力強く支援し人材を育てる北欧の国々のように、日本でも、人生の初めに公的資金を投入して、将来の人材をつくるべきではないか、と提言した。
以上の報告を受け、コメンテーターの篠塚氏は、北欧の国が主導している幼児教育は認知能力のみならず、非認知能力を伸ばしていることに着目し、特にスウェーデンの五つの平等の教育は素晴らしいと評価した。現在の日本社会の重要課題である「働き方改革」の実現には、幼児期からの価値観の教育が効果的と考えられる。「幼児教育の適否が社会経済の在り方を規定する力をもつ」という認識を、国民全員が持つべきであると述べた。
これに続く質疑応答では、多くの質問、意見が寄せられた。今後の関連テーマでのセミナー開催の要望の声もあり、北欧の0歳児保育について、我が国の明治期の幼稚園の貢献、幼児教育や保育の制度設計を土台にどのような社会経済の政策制度設計が望ましいか、といった候補テーマも挙げられるほどの関心の高さであった。
(記録担当:佐野潤子 IGS特任リサーチフェロー)
《開催詳細》
【日時】2018年1月17日(水)15:00~17:00
【会場】人間文化創成科学研究科棟604室
【司会】佐野潤子(IGS特任リサーチフェロー)
【ゲストスピーカー】下重喜代(サステナブル・アカデミー・ジャパン代表)
【コメンテーター】篠塚英子(お茶の水女子大学名誉教授)
【主催】ジェンダー研究所、「家族とキャリアを考える会」
【参加者数】61名