IGS研究協力員報告会
2018年7月30日(月)、ジェンダー研究所研究協力員の研究報告会を開催した。報告者は、2018年度のIGS研究協力員である平野惠子とマウラ・スティーブンスである。
最初の報告者の平野さんは、現在、科研費ですすめている研究について、「『技能化』と組織―インドネシアにおける移住・家事労働者の権利」というタイトルで報告した。ILO189号条約(The International Labor Organization’s Convention #189 (ILO C189))は家事労働者のディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に関する世界的に影響力のある条約であるが、インドネシアはこの条約に批准していない。しかし、平野はこの条約の存在が、インドネシアで起こった家事労働者の権利運動をとおして、家事労働がディーセントワークとなるよう、移住労働者保護法を成立させ、国内の家事労働者の組織化を促したことを紹介した。しかしインドネシアでは、まだ家事労働者の保護とそのための規制は存在せず、今後の改善のためには、家事労働者の組合と家事労働者使用者(雇用主)の団体との社会的な対話が必要である。しかし、そもそも家事使用者団体が存在していないため、社会的な対話は実現しない。そのため、移住家事労働者がインドネシアでの家事労働で経験をスキルを生かして、帰国後に何か(レストランのウエイトレス等)をしたいと思っても、家事労働者や彼女たちのスキルに対する社会的な承認が得られないため、技能を持った人として認可されない。そのため、インドネシアの家事労働者の権利運動にも限界が見えていると述べた。
二人目の報告者であるマウラ・スティーブンは、「日本における生理に関する医療人類学的研究」について報告した。スティーブンスは、米国ハワイ大学から国際交流基金フェローとして、お茶の水女子大学のジェンダー研究所に研究協力員として10か月間滞在し、その間に、日本の女子大学生(協力者20名)を対象に生理に関するインタビュー調査を実施し、日本人女性の個人的な経験を起点に、月経を通じた女性身体の医療化の問題や生理休暇を含む制度的・政策的対応等を医療人類学の立場から分析した。報告時、まだ調査の途中段階であるため、明確な結果は示されなかったが、女性たちがどのように生理について習ったのかや、初潮を迎えた時の記憶、生理に関する不安や悩み、生理前と生理中の身体的、感情的、精神的変化、また生理用品について等、興味深いデータが示された。本研究のデータは、ハワイ大学に戻ってから本格的に分析される予定で、最終的には学会での口頭発表や論文、書籍としても公表する予定だという。
記録担当:仙波由加里(ジェンダー研究所特任リサーチフェロー)
《開催詳細》
【日時】2018年7月30日(月)15:00~16:30
【会場】お茶の水女子大学人間文化創成科学研究棟4F 408教室
【報告者】
平野惠子「『技能化』と組織化 インドネシアにおける移住・家事労働者の権利保護」
マウラ・スティーブンス「日本における生理に関する医療人類学的研究」
【司会】仙波由加里(お茶の水女子大学 ジェンダー研究所)
【主催】お茶の水女子大学ジェンダー研究所
【参加人数】11名