IGS研究会「Exploring How Women’s Contraceptive Choices Can Be Influenced by Their Views on Abortion」
2020年1月24日(水)に国際研究交流を兼ねて、イギリスのThe Open UniversityのLesley Hoggart教授を迎え、イギリスと日本における避妊と中絶の関係性をテーマにIGS研究会を開催した。
イギリスについてはHoggart教授が、これまでイギリス国内で実施してきた女性の避妊方法の選択や中絶を経験した女性の意識に関する7つの質的調査の結果を中心に報告した。イギリスではピルによる避妊が最も一般的で、皮下インプラントやIUD(子宮内避妊具)のようなLARC(Long-Acting Reversible Contraception)と言われる方法を選択する女性も少なくない。皮下インプラントやIUDは、太ったり出血が続いたり、違和感や痛みがあるなどの身体的な不調をきたす場合もあり、これを理由に中断する人もいるが、一度挿入すればピルのように飲み忘れる心配もなく、長期にわたって確実に避妊ができるため、これを選択する女性たちが少なくない。こうしたことから、イギリスでは女性たちが望まない妊娠を避けるためにリプロダクティブ・コントロールを重視している状況がうかがえる。また、イギリスでは中絶も公的保険で無償で受けることができ、未成年であっても親やパートナーの承諾なしに中絶を受けることができる。これは1900年代後半、望まない妊娠をしてしまった若い女性が自殺に追い込まれるようなケースがおこったため、これを避けるために女性に中絶の機会を提供するようになったという。このようにイギリスでは、望まない妊娠をしてしまった場合の妊娠の継続や中断を決定する権利が女性に与えられている状況がうかがえる。
一方、日本についてはジェンダー研究所の特任リサーチフェローの仙波由加里が中絶に関する法律の成立の歴史的経緯や、「平成29年度衛生行政報告例の概要」や「日本家族計画協会第8回男女の生活と意識に関する調査」(2016)に示されるデータを用いて、避妊や中絶の状況について報告した。日本では、避妊は男性主体の不確実な避妊に頼っている割合が高く、コンドームによる避妊が83.9%、性交中絶法(膣外射精)が19.1%を占めている。ピルでさえ、日本では医療機関を受診して医師による処方箋がなければ得ることができず、かつ高額な経済的負担が強いられるため、5.5%の女性しか利用していない(家族計画協会、2016)。望まない妊娠をして中絶を経験する女性も少なくなく、日本家族計画協会の調査では、676人の女性回答者のうち10.4%が中絶を経験していた。むろん日本はイギリスとは異なり、中絶も私費でうける必要があり高額である。加えて中絶についてパートナーの承諾も得なければならない。
日英どちらの国も、望まない妊娠を懸念する女性は少なくなく、避妊は両国の女性にとって不可欠である。また望まない妊娠を経験した女性が抱く思いやスティグマにも共通点は多い。しかし、女性の避妊方法の選択や中絶の提供のあり方に対する日英の扱いをみると、女性のリプロダクティブ・チョイスやリプロダクティブライツの尊重という面において、日本はイギリスに大きく後れをとっている状況が浮き彫りとなる。両国の状況を踏まえて、今後のこの問題の課題として、避妊や中絶に対する男性の意識調査の必要性があげられた。
記録担当:仙波由加里
(ジェンダー研究所特任リサーチフェロー)
【開催日時】2020年1月24日(金)16:00~18:00 |