IGS通信

セミナー「月経教育と女性の生涯の健康」

IGSセミナー(生殖領域シリーズ)月経教育と女性の生涯の健康

本セミナーでは月経教育と女性の生涯の健康をテーマに、米国ハワイ大学大学院社会科学研究科博士課程のMaura Stephens-Chu氏と湘南鎌倉医療大学看護学部看護学科教授の森明子氏が、月経教育に着目し、それが女性の生涯の健康にどのような影響を与えるかについて、Stephens-Chu氏は医療人類学者およびフェミニスト人類学者の立場から、森氏は医療専門職者の立場から講演した。

Stephens-Chu氏は、2017年度国際交流基金日本研究フェロー兼お茶の水女子大学ジェンダー研究所の研究協力員として来日し、2018年度夏まで東京で博士論文のために主に女子大生や生理用品企業、研究者へのインタビューを通して調査研究をすすめた。本セミナーではSilva Iaponticarum (Summer/Autumn 2019)に掲載された論文‟Conceal at All Costs: Lived Experiences of Menstruation in Japan“の中から、日本の女子大学生の生理に関連する経験や生理用品業界の調査結果を紹介した。月経困難症や無月経などの月経異常は、近年マスメディアからも注目され、医学研究の蓄積もあり、一般の人にも徐々に知られるようになってきている。日本は少子高齢社会を背景に、月経異常が生殖能力に影響するということを、メディアや科学論で強調し、学校教育の現場でも、月経は生殖能力と関連があり、生殖能力と母親になることが女性として大事であると強調する。そしてそう教えられた若い女性たちは、自分の月経周期が学校で習った月経の特徴と異なる場合に悩むことになる。Stephens-Chu氏は東京在住の女子大学生へのインタビューを通して、その実態を調査した。調査協力者の大半は毎月定期的に月経がくれば自分は健康だと認識し、一方、月経不順であれば現状の健康に問題があり、将来不妊になるのではないかと不安を抱く。しかし女子大生たちは、月経量が多かったり、月経痛、月経不順などの月経異常を経験しても、実際には全ての人が医療機関を訪れるわけではない。Stephens-Chu氏は月経に問題があった時の彼女たちの対応や治療の決定の違いは、月経教育と関係があることを、インタビューで得た女子大生たちの言葉を紹介しながら提示した。

そして森氏はリプロダクティブ・ヘルス、とくに不妊を研究領域とする研究者だが、厚生労働省の不妊治療関連の検討会委員も経験し、看護職の専門家として、まず月経の医学的側面を解説した。そして月経と高校生アスリートの競技パフォーマンスへの影響に関する調査や、看護系大学生の月経による学業への影響、就業看護職者の月経随伴症状が仕事に与える影響を示す調査結果を紹介しながら、月経に関する問題が女性の生活にどのように影響を及ぼしているかや、そうした問題にどのように対処しているかについても紹介した。また月経に対する教育プログラムと評価及び月経教育へのニーズについても、高校生に対する月経教育や、大学生に対する月経痛コントロールのための教育を通した効果を紹介し、こうした教育のニーズに言及した。最後に現在森氏がすすめている科研プロジェクトで、子宮内膜症の治療開始が遅れる女性のケースについて成人女性患者の月経教育の経験と関連付けた調査内容を紹介し、月経はヒトの生殖と深く関わるだけでなく,女性の生涯の健康と関わっていることを示し、これからの月経教育は何を目指し,どう構造化すべきなのか、それをどのように実装/実現させるのかといった問題を提起した。

多くの女性にとって身近な問題であるため、セミナー後も参加者からも多くのコメントや質問が寄せられ、非常に意義あるセミナーとなった。

記録担当:仙波由加里
(IGS特任リサーチフェロー)

《イベント詳細》

【開催日時】2020年11月21日(土)10:00~11:30 (日本時間)/11月20日(金)15:00~16:30(ハワイ時間)
【会場】オンライン開催
【講演】
マウラ・スティーブンス・チュ(米国ハワイ大学大学院社会科学研究科博士課程在籍、講師)
講演タイトル:「生理の習い方と話し方が生理異常の治療の決定にも影響する? 日本の女子大生へのインタビューから」
森明子(湘南鎌倉医療大学看護学部看護学科教授)
講演タイトル: 「月経と女性の健康」
【司会】仙波由加里(お茶の水女子大学 IGS特任リサーチフェロー)
【言語】日本語
【参加者数】97名