IGSセミナー「国際協力とジェンダー・トランスフォーマティブ・アプローチ」
本学博士前期課程科目「国際社会ジェンダー論」の授業の一環として、2021年12月15日(水)IGSセミナー「国際協力とジェンダー・トランスフォーマティブ・アプローチ」がオンライン開催された。
第一部「国際的キャリアの形成と国際協力機構(JICA)での仕事」では、田中氏が、国際開発の民間企業就職→英国の大学院で国際開発学履修→国連JPO(Junior Professional Officer)派遣制度により国連工業開発機関(UNIDO)タイ国事務所勤務→国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)社会開発部WID(開発と女性)課勤務→JICA国際協力専門員として活動、と、海外で学問と実務の双方で国際的なキャリアを形成してきた経緯をお話いただいた。
田中氏がJICA国際協力専門員としてジェンダー支援の新しい方法を開拓する過程で、2015年国連サミットでのSDGs(「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と持続可能な開発目標)採択を契機に様々な分野でジェンダー主流化が推し進められるようになり、2020年代からSDGs目標達成のための社会変革を目指してGTAの言葉が使われだしたという。
GTAとは、今まで行われてきたジェンダーのアプローチをAgency、Relations、Structureの3点から整理し直したものである。Agency とは、当事者が自らの人生において自身の意思で選択したことを実現できる主体能力の育成を支援すること、Relations とは、社会のジェンダー規範や男女の意識を変革すること、Structure とは、ジェンダー平等で多様性を尊重する法律・政策・制度の構築を指す。また田中氏が監修した『ジェンダー・トランスフォーマティブ・プログラム ガイドブック』(https://www.plan-international.jp/about/pdf/2104_GTP_guidebook.pdf公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン)では、GTAはジェンダー規範の変革、エージェンシー支援、ジェンダー平等達成を目的とした男児と男性のエンゲージメント、状況改善にとどまらない女児と女性の社会的地位の向上、多様なニーズの明確化と差別や排除の問題への取り組み、法律・社会構造の変革と、6点で提示されている。
第二部は、「実証的研究:『タンザニア農村におけるジェンダーと土地権の変遷について』」と題し、田中氏の学位論文を基にGTAについての議論が行われた。
土地権とジェンダーについてはSDGsのゴールに、1.4「土地への男女の平等の権利」、2.3「土地への平等なアクセス」、5a.「女性に対し、経済的資源に対する同等の権利、オーナーシップ及び土地、その他の財産、相続財産等に対するアクセスを与えるための改革を行う」とあるが、具体的な方法は明示されていない。女性の農地所有率はその労働力に対して、アフリカ南部では15%、日本でも21%と低い。タンザニアでの女性の土地所有を阻む背景には、父兄社会、氏族社会の慣習法による土地所有・相続と民法の問題があり、氏の研究は以下のような女性の土地所有の実態を明らかにしている。①女性の自己名義登録には必ずしも管理権が伴わず特に処分権が付与されないことが多い、②夫の土地は自己名義に変更しない傾向があるが、農村女性の土地権は増加している、③氏の調査によれば、娘より息子に土地相続させる回答が倍多いが、希望としては全体の約半数が娘と息子の両方に相続させたいと考えている、④遺言書の作成啓発が女性の土地所有の拡大装置として機能している、の4点である。
GTA概念に照らすと、女性は土地所有によってエージェンシーを高めるが、「女性は自らにとって価値があることを選び、その選択にはバリエーションがある。土地購入、遺言書などの選択肢を通じて実現可能性を高めようとしている」というAgency、「ジェンダー平等な土地法は必要だが、固有の状況に沿って多様な選択が可能になるような制度構築が必要」というRelations、「社会の近代化により、家族の関係性、ジェンダー関係性、土地所有・相続のあり方、社会規範が変容しており、コミュニティは女性と協働関係を築くことが可能となっている」というStructureの3点が指摘できる。
開発政策・事業へのインプリケーションとしては、①土地の慣習的耕作権・所有権を確保できる制度構築、②相続・贈与・売買により土地権を確保できる制度構築、③土地権の多様な選択を実現可能にする制度構築があげられた。本研究で、近代化による農村社会の核家族化という変容に伴い、女性の土地所有を助勢する事象が発現している、女性の多様な土地権に関する選択肢を拡大することが農村女性の実現可能性を高めることが明らかになった。
質疑応答では、キャリア形成における日本での就職の意義や、インタビュー調査の実際、JICAのジェンダー案件の分類の仕方についてなど、活発な議論が展開された。
記録担当:下川自子(お茶の水女子大学大学院博士前期課程)
《イベント詳細》 【日時】2021年12月15日(水)13:20~14:50 |