IGS通信

セミナー「生殖医療技術と男性性」

IGSセミナー(生殖領域)「生殖医療技術と男性性」

生殖医療の研究では、近年、日本でも女性の当事者に注目した研究は多くみられるようになってきたが、実は男性も生殖医療利用の当事者であり、日本ではこの男性当事者に焦点を当てた研究は決して多いとはいえない。たとえば男性不妊は男性にとって大きなスティグマであり、妊娠・出産のために臨む不妊治療の各段階で、男性は不妊による悩みや思いを自分一人で抱え込み、周囲のみならず、パートナーにも打ち明けない傾向があるといわれる。また診療の場でも、女性が主導権を握ることが多く、男性不妊で自分に原因がありながら、実際には女性パートナーが生殖医療を受けている状況の中で、男性は何を考え、どう生殖医療と向き合っているのかはよく知られていない。今後も生殖医療の需要の増加が見込まれる中で、生殖医療のあり方を考える上でも、男性当事者の心理や行動等に関する研究も非常に重要となってくる。今回のセミナーでは、生殖医療の中でも出生前検査に焦点を当て、男性当事者が出生前検査の選択や実際の検査をどのようにとらえているかについて2人の研究者が報告した。

第一報告者の菅野摂子氏(立教大学)は、これまで不妊女性を対象に多くのインタビュー調査をすすめてきたが、そうした中で、女性たちが夫についてしばしば語るのを聞いていた。そこで出生前検査は妊婦の身体が対象に行われるが、そのパートナーである男性は出生前検査という選択肢が提示された時に、何を考え、どのように向き合っているのかについて興味を持つようになった。菅野は現在、出生前検査を受けるかどうかの選択を、妻の主導で選択した場合と夫の主導で選択した場合に、どのような違いがみられるのか、また妻に流産の経験があった場合にはそれが出生前検査の選択にどのように反映されるのか、出生前検査において男性が女性パートナーの気持ちを先読みしているようなことがあるかどうかなどについて調査研究をすすめており、その途中経過が報告された。

第二報告者の斎藤圭介氏(岡山大学)も、夫(男性)の問題として出生前診断を捉えたときに生じる諸問題を整理し,妻の身体を対象とする出生前診断のもう一人の当事者である夫が、どのような経験をしているのか、2017年秋に東京で実施したインタビュー調査をもとに報告した。生殖医療に対して、これまで男性の無関心さや無責任さが強調されることがよくあったが、男性も出生前診断を受けるかどうかの判断に悩み、その結果を誠実に引き受けようと試行錯誤していることを明らかにした。そして、胎児に障碍がある場合の考え方は,当事者の男性が仕事に重きを置く生き方をしているかどうかなど、男性自身の働き方に関連して論じられることがあり、女性に関する先行研究との比較を念頭に置くと,検査を受ける当事者が女性であるか男性であるかの違いよりもライフコースのほうが出生前診断についての考え方により強い影響を与えている可能性があることに言及した。そして出生前診断の捉え方にジェンダー差があるということを提示するにはまだ根拠に乏しく、さらに慎重な検討が必要だと述べた。報告後は、フロアーからも活発に意見や質問が出され、充実した討論ができた。

記録担当:仙波由加里(ジェンダー研究所特任リサーチフェロー)

《開催詳細》
【日時】2019年7月26日(金)18:00~20:30
【会場】本館126室
【コーディネーター/司会】仙波由加里(IGS特任リサーチフェロー)
【趣旨説明】仙波由加里「日本における男性不妊の現状」
【研究報告】菅野摂子(立教大学社会福祉研究所特任研究員)「男性の生殖を問う理由と研究の意義」
【研究報告】斎藤圭介(岡山大学准教授)「出生前診断に男性はいかに向き合ってきたのか」
【主催】ジェンダー研究所
【言語】日本語
【参加者数】40名
【開催案内】http://www2.igs.ocha.ac.jp/events2019/#2019726