IGS研究会「Shared Visions for Korea-Japan Relations: Globalism, Peace, and Gender Issue」
2019年11月18日、ジェンダー研究所は、平和研究分野において韓国の代表的な研究所の一つである済州平和研究院と、日韓関係と平和構築をテーマとする共同セミナー「Shared Visions for Korea-Japan Relations: Globalism, Peace, and Gender Issue」を開催した。
2019年は植⺠地の歴史に起因する強制労働問題をめぐって日韓政府間の関係がさらに冷え込み、社会の多方面で行われていた交流が途絶を余儀なくされた。そのような中で開かれた共同セミナーでは、平和を中心テーマに歴史問題への理解と未来展望について議論を深めた。ジェンダー研究所はこれまでも平和研究をテーマにしたセミナーを開催してきたが、他国の研究所との共同セミナー開催は初めての試みであった。平和とジェンダーは、それぞれの研究領域においてお互いに欠かせない分野でもあることから、大きな刺激を与え合うセミナーとなった。ジェンダーによる抑圧や⼥性に対する日常的な暴力の根絶などは「平和」の概念を再考するに欠かせないだろう。
Dr. HANは今日の日韓関係の悪化の要因は、1965 年に締結された日韓協定の欠陥と、それ以降大きく変化した両国の経済、安全保障、文化にあると分析した。韓国の経済規模は、1970 年においては日本の経済規模の13分の1に過ぎなかったが、今日では約3分の1近くに急成⻑し、グローバル市場で同等に競争するミドルパワーとなった。韓国の第一経済パートナーも日本から中国に変わって久しく、安全保障上の最大の脅威は、日本やアメリカとは異なり、中国ではなく北朝鮮である。北朝鮮の非核化など韓国の安全保障に日本が果たせる役割にも限界が見えた。このような国際政治の変化は韓国にとって、1965年当時より日本の存在感を弱めることになり、1965年の日韓協定の時には蓋をしていた歴史的な不正義の問題を解決しようとする動きに繋がったと分析した。また日韓関係の緊張は、アメリカ主導の安全保障構想に韓国が一方的に引き込まれないレバリッジを与えていたと評価した。
三牧氏は、持続可能な日韓関係を構築するためには従来の国際政治のアプローチを転換することが必要と主張した。従来、日韓両政府は、歴史や領土をめぐって両国⺠の不信が高まった際には、これらの問題と経済・安全保障上の協力を切り分ける「ツートラック」的な思考によって解決しようとしてきた。しかし、2019 年夏以降の両国の経済・安全保障面での対立の悪化は、この解決方法の限界を示している。報告「Toward Trans-generational Understanding of History」では、持続的な和解のためには、いかに迂遠にみえても、市⺠間の信頼関係を築いていく必要があるとして、市⺠、特に若者の間にみられる両国への歩み寄りの事例を紹介し、その展望を検討した。
本山氏は、安倍政権の外交政策に焦点を当てた報告を行った。第2次安倍政権の下で日本軍「慰安婦」制度の国家責任を否定する歴史修正主義が、日本政府の公式の外交方針となってきたと指摘した上で、安倍政権は「慰安婦」問題についていっそう強硬な姿勢をとる一方で、他方では「⼥性が輝く社会」を外交政策の柱として、武力紛争下の性暴力防止を国際的に推進している。本山氏は、その背景に、普遍主義的フェミニズム理解にもとづく国際ジェンダー規範が、脱政治化されながら国際安全保障と豊かな国家の外交政策に取り入れられていることを指摘した。
報告後には参加者全員で活発な議論を行い、今後も交流を続ける意義を確かめた。
記録担当:申琪榮(IGS准教授)
《イベント詳細》 【日時】2019年11月18日(月)15:30〜18:00 Session 1 Globalism and Peace Session 2 Globalism and Gender Issues 【主催】ジェンダー研究所、韓国・済州平和研究院 |