IGSセミナー(生殖領域シリーズ)「生理の貧困」
昨年11月に開催したIGSセミナー(生殖領域)「月経教育と女性の生涯の健康」でも、月経と女性の健康の問題を取り上げ、参加者から様々なフィードバックをいただいた。そして、ほとんどの女性が一生のうちに一定期間、経験する身近な生理学的現象でありながら、あまり議論する機会がなかった月経の問題を改めて認識させられた。加えて新型コロナの感染が拡大する中、最近では職場やアルバイト先を失ったり、家庭の経済的な理由から、生理用品を手に入れることに苦労している女性たちがいるという問題について、メディアでもしばしばとりあげられている。そこで、本セミナーでは「生理の貧困」(Period Poverty)をテーマに、イギリスのエディンバラ・ネピア大学の研究者および映像制作のスペシャリストであるカースティン・マックロード氏と、プラン・インターナショナル・ジャパンの研究者であり活動家でもある長島美紀氏を招いて、貧困と月経の問題をジェンダーの視点から討論した。
写真左から:仙波、マックロード、長島
マックロード氏は、エディンバラ・ネピア大学の学生や同僚とともに2018年から生理の貧困をテーマにしたドキュメンタリー映画の制作を開始し、本セミナーの1か月前に映画『Bleeding Free』を完成させ、スコットランドで初上映した。本セミナーではその映画の一部を紹介しながら、生理の貧困が若い女性や少女たちの教育や人生のチャンスにどのような影響を与えているかを提示した。スコットランドでは2020年11月にThe Period Products (Free Provision) (Scotland) Act 2021が制定され、2021年1月より施行されている。これは生理用品を必要とするスコットランドのすべての女性と少女が、とくに教育機関や公共の場において生理用品を無償で利用できるようにするという法律である。映画は、この法律の制定をきっかけに大学に設置する生理用品ディスペンサーを設計した3人のスコットランド人学生の活動を軸に描いている。政府の政策レベルから、学生や女子学生による教育機関内での活動まで、生理の貧困に対する意識を高めるためのさまざまなアプローチがあり、これを紹介した。また同映画の中では、ウガンダでの活動も取り上げ、女子に再利用可能な生理用ナプキンの作り方を教える学校内でのプロジェクトや、コミュニティファシリテーターや高齢者も参加して、女性が生理用パッドを製造し販売する事業を立ち上げる活動や、月経に関する健康教育へのサポート等さまざまなアプローチを紹介している。そしてこうした活動に男性も巻き込み、広いコミュニティの賛同を得て、永続的な成功と影響力を持つ必要があるとマックロード氏は述べた。
次に長島美紀氏は、プラン・インターナショナル・ジャパンで、2021年3月に実施した調査結果に基づいて、日本における生理をめぐる現状と課題について述べた。長島氏は、まず生理が日本文化の中でタブー(禁忌)として長くとらえられてきた歴史的経緯を説明し、続いて「日本のユース女性の生理をめぐる意識調査」の結果の中で特に注目すべき点を紹介した。日本の15~24歳の女性約2000人を対象に実施した生理と日常生活についての調査の結果から、「収入が少ない」「生理用品が高額」「親が買ってくれない」などの理由で、生理用品を入手できなかったり、購入をためらった経験を持つ人が10人に3人もおり、また生理用品や生理に関連する低用量ピルや痛み止めなどの薬の購入は、交際費や交通費、美容代などに比べると優先順位が低いことが紹介された。また、2人に1人が生理痛に苦しみ、10人に3人が生理で学校・部活・職場での遅刻・欠席・早退、機会損失を経験していたことなどにも触れた。こうした調査の結果を踏まえて、生理の影響を受けて大事な機会を損失している若い女性が多いことについて言及し、月経に対するスティグマをあらため、隠すのではなく、公に語り、問題を可視化させることが重要であり、学校での性教育の必要性を主張した。
本セミナーは、男女を問わず、数多くの参加者からたくさんのフィードバックや質問をいただいた。この問題への関心の高さを改めて感じさせられることとなった。
仙波由加里(IGS特任講師)
ドキュメンタリーフィルム“Bleeding Free” 日本語字幕版
(製作:エディンバラ・ネイピア大学 Bleedin’ SAOR 2021/日本語字幕:仙波由加里)
《イベント詳細》 【開催日時】2021年7月16日(金)17:00~19:00 (日本時間) |