IGSセミナー(生殖領域シリーズ)2018年度第1回
『代理出産をめぐる世界の現状―商業的代理出産から利他的代理出産へ』
2018年10月29日(月)、金沢大学の日比野由利氏を招き、お茶の水女子大学人間文化研究棟の604室で、2018年度第一回目の(生殖領域シリーズ)IGSセミナーを開催した。日比野氏は『代理出産をめぐる世界の現状―商業的代理出産から利他的代理出産へ』というテーマで報告し、報告の中では、2002年にインドで合法化された商業的な代理出産が、どのように新興諸国であるタイ・ベトナムへ拡大していったのかを紹介した。そしてこの3か国でどのような問題や事件がおこり、それらを通してどのように代理出産に関する法律がつくられ、その後外国人に対する代理出産サービスを禁止する方針へと転換されていったのかについて紹介した。
インドは、Manji事件(日本人男性が代理母を介して子どもを得たが、インドの法律に従ってその子を養子にできないために、子どもの国籍取得ができず、日本へ連れて帰れなかった事件)等、生まれた子や代理母に不利益をもたらすような様々な事件がおこり、2015年に外国人への代理出産サービスの提供を禁止した。しかしその後も、インドは自国の希望者に対しては商業的な代理出産を容認している。一方、タイのように、オーストラリア人による障碍児の受け取り拒否や日本人ビジネスマンが代理母を介してたくさんの子どもを持つなど、商業的代理出産に関してさまざまな事件が起こり、これらをきっかけに、外国人への代理出産サービスを禁止したが、利他的な代理出産については容認している国もある。しかし、特に不妊を家族の問題と考えるような文化を持つ国々で無償での利他的代理出産をすすめる場合には、不妊の女性の代わりに家族や親族の妊娠・出産が可能な女性が、代理母になることを押し付けられ、断りにくい雰囲気が形成されることもあり、利他的代理出産がもたらす課題も重い。今回はインド、タイ、ベトナムの代理出産を中心に紹介されたが、今後は外国人がこれらの国で代理出産サービスを受けられないためにさらに周辺の新興諸国に生殖医療ツーリズムが拡大する可能性が高く、注視していく必要がある。質疑応答や討論の時間には、参加者からもこの問題に関して、活発に声があがった。
記録担当:仙波由加里(ジェンダー研究所特任リサーチフェロー)
《開催詳細》
【日時】2018年10月29 日(月)18:15~20:30
【会場】お茶の水女子大学人間文化創成科学研究棟5F 604室
【報告者】
日比野由利 (金沢大学 医薬保健研究領域 環境生態医学・公衆衛生学研究室)
報告タイトル:「代理出産をめぐる世界の現状―商業的代理出産から利他的代理出産へ」
【ファシリテータ】 仙波由加里(お茶の水女子大学 ジェンダー研究所)
【主催】お茶の水女子大学ジェンダー研究所
【参加人数】33名
【開催案内】http://www2.igs.ocha.ac.jp/events2018/#1029