IGS国際シンポジウム「平和外交と女性の政治リーダーシップ」

IGS国際シンポジウム
「平和外交と女性の政治リーダーシップ」

 2026年7月30日、国際シンポジウム「平和外交と女性の政治リーダーシップ」が開催された。はじめに、本研究所の教授でありモデレーターを務めた申琪榮氏から本シンポジウムの趣旨説明があり、平和や安全保障という問題を軍事や国家間の交渉だけの問題として考えるのではなく、誰の声が意思決定に参加・反映されているのかという観点から検討することも重要であるとの指摘がなされた。続いて、本シンポジウムを共催したグローバルリーダーシップ研究所の所長である石井クンツ昌子氏より、開会の挨拶があり、女性やマイノリティの政治参画の重要性について述べられた。その後、国内外で法・政治分野に関わる研究者・実務家・政治家の4名からの報告、登壇者らによるパネルディスカッションとフロアからの質疑応答が実施された。会場参加者の中では、申氏が今年度前期に担当した本学学部生向け講義「政治・政策とジェンダー」の履修生と、関連分野の学外の活動家の出席が目立った。

 各登壇者の報告は下記の通りである。1人目の登壇者ビナイファー・ノウロジー氏は、国際的な人権問題に取り組む財団Open Society Foundationsの代表、そして国際人権法の法律家であり、「誰が権力を握り、誰が排除されてきたのか」という問いを軸に自身の研究・活動経験を報告した。ビナイファー氏は1996年に、ルワンダのジェノサイドを生き延びた女性たちへの聞き取り調査によって、「強姦」が組織的なジェノサイドの手段として用いられていた実態を明らかにした。他方、法廷においてサバイバーの女性たちは自身の経験を証言する機会はありながらも、その発言は影響力を持たず、ルワンダ国際刑事裁判所は当初、女性に対する犯罪を起訴状から除外したという。その後、ビナイファー氏を含む女性弁護士らによる働きかけによって再捜査と起訴内容の修正が行われ、ジェノサイドにおける犯罪として歴史的な有罪判決につながった。この経験を踏まえ、ビナイファー氏は、排除は日々の意思決定の中で生じると指摘し、さらには女性の権利やジェンダー平等に対する後退(プッシュバック)は民主主義そのものへの脅威として捉える必要があると述べた。最後に、日本の政治参画の現状も踏まえた上で、資金、ハラスメントへの対応、制度整備という3点の必要性を提言した。

 2人目の登壇者牧山ひろえ氏は、立憲民主党の参議院議員という立場から、自身が関わる平和外交をはじめとする取り組みについて報告した。牧山氏は、今年4月にスペインのサンチェス首相に招かれ、バルセロナで開催された国際会議「グローバル・プログレッシブ・モビライゼーション(GPM)」に出席し、各国のリベラルな価値観を有する要人らと意見交換を行ったという。報告では、牧山氏の支援者が作成した同会議の報告動画が上映された。動画では、立憲民主党が同会議に出席した意義として、日本の野党が参加することで、日本の立場の多様な側面を示すことができた点が紹介された。また同会議後の方向性として、第一に同じ理念を持つ人たちとの連携を強めていくということ、第二に、中間層をしっかり立て直すことが挙げられた。また、牧山氏は日本の政府開発援助(ODA)にも注力しており、アフリカにおける日本の「母子手帳」の普及に対しては高く評価した。一方、国内の外国人に対する永住権の費用の値上がりについては平和に逆行するものとして問題提起した。さらに、「皇室典範」の改正のような、国民から多くの反対意見が寄せられる場合は、「プロセス」が見えるようにすることが重要であると述べ、最後に、自身が普段身につけている衣服や鞄が「平和」を意味する「オリーブ」色であるという、牧山氏の平和に対する想いを語り、報告を締めくくった。

 3人目の登壇者メルバ・プリーア氏は、当日は公務のため、本シンポジウム向けに準備いただいたビデオメッセージを通して、これまでのメキシコにおけるジェンダー平等と政治・外交のあゆみを報告した。特に、1975年メキシコシティで第1回国連世界女性会議が開催されたことや、現代ではフェミニスト外交政策(FFP)を推進していることに言及し、後者については、ジェンダー視点に立つこと、暴力への対応、安全な環境、インターセクショナリティ等の原則に基づいて実施されてきたことを強調した。さらには、2019年の憲法改正により、地方を含む議会、政府、司法のあらゆる公的分野の男女比率が平等(パリテ)になったという画期的な事例を紹介するとともに、この女性参画が単なる数合わせにとどまることがないように、アファーマティブ・アクション等を通じて女性の実質的な意思決定力の強化へと結びつけることが重要であり、外交において女性は平和の構築者であり、国際協力の未来を創るリーダーでもあると論じた。

 最後の登壇者三浦まり氏からは、日本の女性リーダーの実例として、平和憲法を守りながら、世界女性会議などを通じた外交に携わった元社会党党首・元衆議院議長の土井たか子さんの「国籍法」改正の取り組みと、三浦氏自身が関わる女性リーダーのためのプログラムについての報告が行われた。日本の「国籍法」は、戦前は国内(内地)と植民地(外地)の戸籍登録区分があり、戦後も1984年までは父系血統主義に基づいた非常に不平等なものであった。それを父母両系血統主義へと改正するために、1980年代に土井たか子さんが尽力したという。当時、女性差別撤廃条約の批准が後押しになったものの、国籍法改正は、無国籍児などの困っている人を見捨てない土井たか子さんの行動力が勝ち取ったものであること、そして彼女の秘書だった五島昌子さんが市民運動との窓口になり、出入国管理に反対しアジアの民衆と連帯する運動と土井さんを繋いだことを指摘した。また、元ニュージーランド首相であるジャシンダ・アーダーンさんの自伝を挙げ、「権力を何のために使うのか」という問いを提起した。さらには、申氏・三浦氏が共同代表を務める「一般社団法人パリテ・アカデミー」が主催するプログラムでは、政治に関心を持ち、実際に行動する全国の女性らの状況を紹介し、女性の政治参画を後押しするロールモデルの重要性を強調した。

 上記4名による報告後は、ビナイファー氏、牧山氏、三浦氏の3名に、駐日メキシコ合衆国大使館の政治・ジェンダー担当官であるダニエラ・メドラノ氏を加えパネルディスカッションを実施し、フロアからの質疑に応えた。モデレーターの申氏からは、市民社会に敵対的な国家が増える中で国際的な財団が果たせる役割や、フェミニスト外交政策の影響力、女性議員の存在による変化や支援の状況についての問いが示され、フロアからはジェンダー平等に向けた男性との共同、選択的夫婦別姓や政治と宗教に関わる今日的な問題についての質問が挙がった。これらの問いに対して、終了予定時刻の直前まで登壇者間の活発な議論がなされ、盛会のうちにシンポジウムは終了した。

記録担当:臼杵ふたば
(お茶の水女子大学大学院人間文化創生科学研究科
博士前期課程ジェンダー社会科学専攻)


《イベント詳細》
IGS国際シンポジウム
「平和外交と女性の政治リーダーシップ」

【日時】2026年7月30日(木)16:30~18:00
【会場】共通講義棟2号館201室
【司会】
 申琪榮(Ki-young Shin)お茶の水女子大学ジェンダー研究所教授/パリテ・アカデミー共同代表
【開会挨拶】
 石井クンツ昌子(Masako Ishii-Kuntz)お茶の水女子大学グローバルリーダーシップ研究所所長/お茶の水女子大学理事・副学長
【報告者】
 ビナイファー・ノウロジー(Binaifer Nowrojee)Open Society Foundations 代表
 メルバ・プリーア(Melba Pría)駐日メキシコ合衆国特命全権大使
 牧山ひろえ(Hiroe Makiyama)立憲民主党・参議院議員
 三浦まり(Mari Miura)上智大学法学部教授/パリテ・アカデミー共同代表
【パネリスト】
 ダニエラ・メドラノ(Daniela Medrano)駐日メキシコ合衆国大使館 政治・ジェンダー担当官
【主催】お茶の水女子大学ジェンダー研究所
【共催】お茶の水女子大学グローバルリーダーシップ研究所
【後援】Open Society Foundation, Academy for Gender Parity, Embassy of Mexico in Japan
【言語】日本語・英語(同時通訳有)
【参加者数】154名