IGS通信

国際シンポジウム「女性の政治参画を阻む壁を乗り越える」

IGS国際シンポジウム「女性の政治参画を阻む壁を乗り越える」

同じ東アジアの民主主義国家でありながら、女性の政治参画の水準やスピードに差がある日本、韓国、台湾。違いをもたらした要因は何なのか。お茶の水女子大学ジェンダー研究所は2018年1月26日、韓国と台湾の研究者を招き、女性の政治参画に関するシンポジウム「女性の政治参画を阻む壁を乗り越える~韓国・台湾におけるクオータ、政党助成金、候補者発掘」を開催。3カ国の現状を分析し、女性の代表性を高めるために必要な取り組みについて議論した。

冒頭、同研究所の申琪榮氏が、「日本でもいよいよ、女性の政治参画を進める法律が成立直前まで来た」と紹介し、「クオータ制はすでに100カ国以上が取り入れているが、クオータ制があっても韓国の女性政治家比率は低く(17%)、台湾は高い(38%)。なぜなのか」と問題提起した。

台湾、韓国における女性政治家選出のダイナミズム

報告ではまず、楊婉瑩(ヤン・ワンイン、台湾国立政治大学)氏が、台湾の政党による候補者発掘と公認戦略について発表した。

台湾では2005年に立法院の選挙制度改革があり、中選挙区比例代表並立制から小選挙区比例代表並立制に移行した。同時に、クオータ制を選挙区から比例区に移した。女性団体は「小選挙区制だと女性が当選しにくくなる」と反対したが、必ずしもそうはならなかった。

政党間で比較すると、1992年から2016年までの8回の立法院選挙のうち、2回を除いて国民党の方が民進党よりも女性の公認率が高かった。公認方法を比較すると、国民党は政党本部による中央集権的な公認方法、民進党は予備選などの“民主主義的な”公認方法を採用している。選挙制度改革後は両党とも政党本部が公認を行うケースが増え、女性の公認候補者が増加した。

つまり、楊氏によると、「政党本部がジェンダーバランスに配慮した候補者リストを作ることで女性政治家が増えており、政党内の民主主義が必ずしも女性にとって有利とは限らない」という興味深い分析結果が出た。

權修賢(クォン・スヒョン・韓国慶尚大学)氏の報告は、韓国の政党助成金における「女性政治発展基金」の運用に焦点をあてた。韓国では、女性の政治進出を後押しする制度は、クオータ制と女性候補者推薦補助金、女性政治発展基金の3本柱からなる。女性候補者推薦補助金は、小選挙区に女性候補者を推薦する政党に支給される。また、政党は政党交付金の10%以上を女性政治発展基金に支出しなければならない。

權氏は、各政党の女性政治発展基金の運用を分析した結果から、①基金の支出に占める人件費の割合が大きすぎる、②女性政治家養成への支出が縮小し、体系的なトレーニングもない、③政党の女性担当部門の地位が低く、特徴のある女性政策を作れない、と分析。制度があっても政党の認識不足が女性の進出の障害になっているとして、政党内の女性のエンパワーメントの重要性を強調した。

李珍玉(リー・ジノク、韓国西江大学)氏は、韓国政治の男性優位をフェミニスト制度分析の視点から発表した。李氏は、代表性の分析にあたって、過少代表の状況にある女性に注目すると女性に責任を負わせることになりかねず、それより、男性の「過大代表性」に着目する必要があると指摘した。

韓国では、比例代表名簿の半分を女性に割り当てているものの、比例代表が全議席に占める割合が15.7%にすぎず、しかもこの割合は減少している。また、フェミニスト女性団体からはクオータ制で当選するのはエリート女性だという批判も根強い。しかし、実際には、福祉や労働政策の分野で活躍しているのは、若手の市民団体出身の女性議員が多い。李氏は、これらを踏まえ、比例代表制とクオータ制の組み合わせが「良い制度」であり、その一層の拡大が必要だと結論づけている。

日本との比較、クオータ制導入の意味とそれ以外の要因

後半は、報告をした3人に、3人のパネリストを加えたラウンドテーブル形式で議論を行った。

パネリストの大山玲子氏(駒澤大学)は、海外では国政よりも地方の方が女性議員は多いのに対して、日本は都市部を除く地方には女性議員が国政並みの水準しかいないと指摘。日本では憲法を改正してクオータ制を入れるのが難しいとして、政党交付金をインセンティブに使う韓国の方式に関心を示した。

グレゴリー・ノーブル氏(東京大学)は、選挙制度で女性の代表性が全て説明できるわけではなく、政党の役割や選挙区の性格などの要因が大きいとして、それぞれの国について細かい分析が必要であると強調した。

三浦まり氏(上智大学)は、台湾や韓国の事例を見ると比例代表の意味は大きく、議席数の38%を比例で選ぶ日本では、比例にクオータ制を入れることで大きな変化が起きうると予測した。ただし、政党不信が強く、市民運動も活発ではないため、候補者の公認権が集権的リーダーの元に置かれている現状では、小選挙区で女性を増やすことも重要だとした。

これらの指摘に関し、楊氏は台湾の経験から、比例へのクオータ制導入は必ずしも決め手となるわけではなく、台湾では2大政党が互いに学び合うプロセスがあったとして、よりバランスの取れた候補者を選ぶ政党の責任を強調した。權氏は、韓国では女性の国会議員は比例出身25人、小選挙区出身26人と小選挙区の方が1人多く、女性の政治参画には「政党」や「都市化」の要素が大きいとした。李氏は、男性の利益ばかり代表する政治が政治不信をもたらしており、女性は「政治への責任において自由」との見方が有利に働いている可能性を指摘した。

その後の議論では、比例代表の候補者公認をめぐり、「候補者を審査する人はほとんどが男性であり、審査委員を男女半々にするなどの見直しが必要」(權氏)、「ドイツのような点数化など、公認の過程を制度化することが大事」(李氏)などの指摘が出された。三浦氏は、「韓国や台湾では政治家の政治活動の評価といったモニタリングを市民が実施している。日本も、政党交付金の1%くらいを市民活動が使うことができればモニタリングが可能になる」と主張した。最後に、申氏が「多様性に欠ける政治は、その被害者が見えにくいが、政治権力が一部の社会グループに編中すると国民全体が被害者になるともいえる。政治に関して私たちに当事者意識が低いのが問題であり、誰もが当事者意識を持つのが大事」としめくくった。

日本における女性の政治参画は、諸外国のはるか後塵を拝しているが、考えようによっては参考にできる先例や経験が豊富だということもできる。クオータ制が女性の政治家を増やす切り札のように語られがちだが、政党の考え方や政党間の力学、関連する諸制度、市民社会の力などを踏まえた全体的な議論が必要だということがよく理解できたシンポジウムだった。

(お茶の水女子大学博士課程前期在学・林美子)

《開催詳細》
【日時】2018年1月26日(金)
【会場】本館306室
【司会】申琪榮(お茶の水女子大学IGS)
【講師】楊婉瑩(国立政治大學) 、李珍玉(西江大学) 、權修賢(慶尚大学)
【コメンテーター】三浦まり(上智大学)、大山礼子(駒澤大学)、グレゴリー・ノーブル(東京大学)
【主催】ジェンダー研究所
【言語】英語
【参加人数】56名