IGS通信

国際シンポジウム「女性政治リーダーはいかにして「育つ」か?」

国際シンポジウム報告「女性政治リーダーはいかにして「育つ」か?」(ジェンダー研究所・グローバルリーダーシップ研究所共同)

2018年6月30日(土)、お茶の水女子大学グローバル女性リーダー育成研究機構主催による国際シンポジウム「女性政治リーダーはいかにして『育つ』か?」が開催された。ジェンダー研究所(IGS)とグローバルリーダーシップ研究所(IGL)は、2015(平成27)年の改組により新設された本機構下に設置されて以来、それぞれが主催するシンポジウムやセミナー、研究会への相互参加や協力、日常的な情報交換などの形での協働を続けてきた。その協働関係をさらに深化させ、両研究所のこれまでの事業成果が交差する企画を実現させる目的で、本シンポジウムの準備は進められてきた。

世界経済フォーラムが毎年発表している「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート」が明示するとおり、⼥性の政治参画の推進は、世界各国において重要な課題となっている。草の根レベルで⼥性たちの政治に対する関心を高めることと合わせて、特に取り組みが必要とされているのは、国会および地方議会議員の⼥性割合の増加、すなわち⼥性政治リーダーの増加である。関連テーマの研究に取り組んでいる研究者が両研究所に所属していること、本学が⼥性リーダー育成をミッションとしていること、そして⼥性の政治参画の推進が喫緊の社会課題であることを総合し、シンポジウムの主題は「⼥性政治リーダー」に決定された。そして、カレン・シャイアIGL特別招聘教授(ドイツ デュースブルク・エッセン大学教授)、申琪榮IGS准教授、大木直⼦IGL特任講師の尽力により、国内外から、現役閣僚、国会議員、政党幹部、⼥性政治家育成スクール代表らをゲストスピーカーとして招聘し、また、本学講堂(徽音堂)に400名を超える聴衆を集めて、充実した内容のシンポジウムを開催することができた。

野田聖⼦氏(総務大臣、⼥性活躍・男⼥共同参画担当大臣・衆議院議員)の講演では、冒頭で、⼥性活躍・男⼥共同参画担当大臣に志願した動機が述べられた。「⼥性活躍」は以前から政策としてうたわれてはいるものの、「輝く」というようなイメージ作りばかりが前面に出され、十分な実効性のある政策が⽴案実施されていなかった。男性中心の世界である国会で25年間議員を続けて来た、⼥性議員としての経験を生かしてこの問題に取り組みたい、という気持ちがあっての大臣就任だという。衆議院の⼥性議員割合は10%と低い⽔準である。状況打開のためには、まず⼥性たちが、⼥性議員が少ない事により不利益をこうむっていると理解することが重要と指摘された。また、地方議会においては、人口規模が小さくなるほど⼥性議員割合が低くなる傾向があり、市町村レベルのより身近であるはずの政治からも、⼥性は遠ざけられている。2018年5月の「政治分野における男⼥共同参画の推進に関する法律」の成⽴は、野田氏をはじめとする超党派の国会議員による、3 年に渡る議論と⽴案努力の成果である。この法の成⽴が、⼥性たちが⼥性議員を応援したり、または自ら⽴候補しようという行動のきっかけになればという期待が述べられた。

続いて登壇した陳善美氏(韓国国会議員)からは、弁護士から政治家への転身の経緯、韓国における⼥性の政治参画の状況とジェンダー・クオータ制度の説明、そして⼥性政治家増員のための提言が述べられた。韓国の国会議員の⼥性割合は17%であり、日本よりは高いものの、世界平均の23.8%には及ばず、世界順位でも低いレベルに留まっている。世界各国で、ジェンダー・クオータ制が⼥性議員増加の成果をもたらしていることから、韓国でも2000年にクオータ制を導⼊している。法改正を重ね、現在は国会議員選挙の比例代表候補の50%、そしてその名簿の奇数番号を⼥性にするという義務規定があるものの、⼥性議員数の伸びは芳しくない。その原因としては、全議席数に対する比例代表議席数が2 割未満と低いこと、義務規定に強制力がないこと、比例選出⼥性議員が再選されて政治家キャリアを継続するチャンスが限られていることが挙げられた。課題解決の方法として特に強調されたのは、人材育成の重要性、特に政党が積極的に人材発掘、教育、登用に取り組むことと、⼥性政治家たちのネットワーク形成の重要性であった。⻑期的な視点を持って社会変化の実現を目指すことが必要との指摘で、講演は締めくくられた。

第2部のパネルディスカッションは、⼥性政治家育成の実践が論題となった。円より⼦氏(⼥性のための政治スクール校⻑、元参議院議員)の報告では、⼥性が政治の世界に⼊ること、選挙に⽴候補することの困難が述べられた。未だに性別役割分業の意識が根強い日本社会では、政治は⼥性の仕事とは思われておらず、そのため、政治家として有望と思われる⼥性に⽴候補を勧めても、まずは家族から反対される。校⻑を務める⼥性のための政治スクールでは、政治教育やディベートなどのスキルのトレーニング、ネットワーク構築などに取り組んで、⼥性の政治参画推進の成果をあげているが、やはり、⼥性議員増加の障害となっている選挙制度の見直しや、議員としての仕事と育児の両⽴が可能になるような議会運営の見直しを含めた、制度的、社会的変化が必要であるとのことである。

ヨハンナ・ウッカマン氏(ドイツ社会⺠主党常任理事)の報告では、2005 年に⼥性首相を誕生させているドイツの政治界においても、いまだに⼥性を軽視する傾向が続いていることが示されたうえで、ドイツ社会⺠主党が取り組む⼥性政治家育成プログラムが紹介された。特に強調されたのは、⼥性たちが持続的に政治に関与できる、またはそこでの活動を続けたいと思えるような組織づくりの必要性である。そのためには、構成員の自発的な協力に期待するだけでは不十分で、クオータ制の導⼊や討論会で男⼥に等しく発言機会を与えること、集会への託児サービスの提供などを、公式なガイドラインを設けて実行していかなくては目標は達成されない。結びとして、「ジェンダー平等は、あらゆる政治の核心である」という力強い表明がなされた。

続いて、来日のかなわなかったハーヴァード大学ケネディスクール「⼥性と公共政策プログラム」事務局⻑ヴィクトリア・バドソン氏からの、大学における⼥性のリーダーシップ養成プログラム実施の意義を述べたビデオメッセージが上映された。

その後のパネルディスカッションでは、日韓独の選挙制度の比較や、それぞれの⼥性政治家としての経験、⼥性政治家育成プログラムの詳細、⼥性議員増加の重要性などについての、活発な議論が展開された。質疑応答でも、多くの参加者からの質問があり、議論をさらに掘り下げることができた。

以上のとおり、本シンポジウムでは、現役の政治家そして⼥性政治家育成と⽀援にあたる実務家たちの話を聞き、それぞれの現場での、これまでの成果や困難、そしてこれからの課題について学ぶことが出来た。大学という場でこの企画を実現させることの意義は、本シンポジウムでの議論を、「では大学では何ができるのか」という議論に発展させ、今後の本学および両研究所における研究教育にこれを活かすことにある。かつ、そうして生み出された、優れた教育プログラムや先進的な研究などの成果が、ジェンダー平等社会の実現に資するものとなることであろう。両研究所では、そのような成果に向けた努力が続けられている。

記録担当:吉原公美(IGS特任リサーチフェロー)

《イベント詳細》
国際シンポジウム「女性政治リーダーはいかにして「育つ」か?」

【日時】2018年6月30日(土)13:30〜17:00
【会場】講堂(徽音堂)
【基調講演者】
野田聖子(総務大臣、女性活躍担当大臣、内閣府特命担当大臣、衆議院議員)
陳善美(韓国国会議員、弁護士)
【パネリスト】
円より子(元参議院議員   女性のための政治スクール校⻑)
ヨハンナ・ウッカマン(独・社会⺠主党常任理事、元党⻘年局全国代表)
陳善美(韓国国会議員、弁護士)
【パネル司会】申琪榮(IGS准教授)
【総合司会】大木直子(グローバルリーダーシップ研究所特任講師)
【主催】グローバル女性リーダー育成研究機構[グローバルリーダーシップ研究所・ジェンダー研究所]
【言語】日韓英(同時通訳)
【参加者数】451名