IGS通信

国際シンポジウム「ジェンダー視点に基づいたグローバル女性リーダー像」

国際シンポジウム報告「ジェンダー視点に基づいたグローバル女性リーダー像」(ジェンダー研究所・グローバルリーダーシップ研究所共同)

2019年1月12日(土)、お茶の⽔女⼦⼤学グローバル女性リーダー育成研究機構(GWL)主催国際シンポジウム「ジェンダー視点に基づいたグローバル女性リーダー像」が開催された。ジェンダー研究所(IGS)とグローバルリーダーシップ研究所(IGL)協働の国際シンポジウム企画第2弾である。それぞれの研究所の研究パートナーである、ノルウェー科学技術大学(NTNU)、韓国の梨花⼥⼦大学、そして、交流が進められているベトナム⼥性学院からゲストスピーカーが招かれ、170名の参加者を集めた。

第1部学⻑講演「ジェンダー平等と⼥性のリーダーシップ」には、⾦ヘスク梨花⼥⼦大学総⻑、アンネ・ボルグNTNU副学⻑、室伏きみ⼦お茶の⽔⼥⼦大学⻑が登壇した。⾦総⻑は、まず、韓国の⼥⼦大学は他国のものと比べて規模が大きい、という点を述べた。これは儒教の道徳観にある男⼥の区分が、⼥性に特化した教育を必要とし、⼥性たちによる自律的な空間を存在させてきたことに起因する。それが発展してきた結果、工学や医学といった⼥⼦学生が少なくなりがちな専攻も擁する⼥⼦対象の総合大学が存在し、現在も、⼥⼦大生の30%以上が⼥⼦大学に在籍するという人気になっている。⾦総⻑は、この⼥性が集まる知的空間という環境が、新たな知的基盤、新しい理論的パラダイムを構築するプラットフォームとなるという期待を示し、それこそが、⼥⼦大学の存在意義であると強調した。

続くアンネ・ボルグNTNU副学⻑の講演は、ノルウェーという男⼥平等先進国においても、科学技術分野の研究者、特に教授職位に⼥性が少ないままである現状説明から始められた。NTNUでは、その状況改善を目指して、ノルウェー・リサーチ・カウンシルからの助成⾦を受けての「バランス・プロジェクト」を実施した。まず、ボトムアップの方策としては、⼥性教員対象の教授昇格資格奨学⾦やメンター制度など、⼥性研究者がリーダーシップをとるための力をつける施策がなされた。そして、トップダウンの方策として着目したのは、科学・工学系の学部文化の変革である。学部⻑などリーダー職位にある者を対象とするワークショップで採用したアクション・リサーチのアプローチが、関係者のモチベーションを向上させ、成果につながったということである。トップダウンとボトムアップ双方向のアプローチと⻑期的な取り組みが不可⽋であるという、NTNUの経験に基づく示唆がなされた。

室伏きみ⼦お茶の⽔⼥⼦大学⻑からは、⼥性が活躍できる環境整備が遅れている日本の現状について説明がなされた。お茶の⽔⼥⼦大学では全学的な取り組みにより、⼥性リーダー育成を推進している。学部生対象のキャリア・デザインプログラムや、働く⼥性対象のビジネスリーダー育成プログラムのほか、学術界での⼥性活躍推進のために、大学院生を対象とした海外派遣プログラム、⼥性研究者対象の妊娠・出産・育児⽀援プログラムなどを実施。それらは、GWL における研究プロジェクト成果に基づく知見により企画運営されている。今後も、国際的な共同研究や、企業と連携しての教育プロジェクトに精力的に取り組み、研究と教育を連携させて⼥性活躍のための環境を創出するという展望が示された。

第2部は「グローバル⼥性リーダー:多様性とネットワーク」というテーマによるパネルディスカッションである。梨花⼥⼦大学リーダーシップ開発院のソンイェラン特任教授は、科学・技術・工学・数学(STEM)分野における⼥性のリーダーシップについて報告した。STEM分野における⼥性の障壁は、目に見えない無意識の部分に存在し、認知されにくいことから解消もされにくい。例えば、研究室内にSFのポスターやビデオゲームといった、男性ステレオタイプの「記号」が存在するだけで、そこは⼥性にとって居心地の悪い、働きにくい場所になる。また、その環境下で孤⽴を感じたり、誰からの励ましもなかったりすることが、研究者の道をあきらめる原因となる。梨花リーダーシップ開発院が実施している梨花・ルース国際セミナーでは、⼥⼦学生たちに、STEM分野に存在する⼥性差別やジェンダー・バイアスについての知識を持たせるとともに、リーダーシップスキルを身に着けさせることで、STEM分野における男性中心文化を変革できる⼥性リーダーの育成を目指しているとのことである。

ベトナム⼥性学院のキム・アイン・ズオン副学⻑の報告では、ベトナムの大学における⼥性のリーダーシップに焦点が当てられた。ベトナムでは、学生の⼥性割合は50%近くに達するものの、教員の⼥性割合はそれに比して低く、教授などの高職位の⼥性割合はさらに低くなる。ベトナム社会におけるジェンダー規範が、⼥性を従属的な⽴場に置いていること、家事は⼥性が担うものとされていること、定年が男性よりも5年早いなど、⼥性の機会を限定する構造的な要因は多い。また、リーダーシップのポジションの求人広告には、「男らしい」特性が強調されているため、⼥性たちは適性がないと思い込んで応募しない。このような事態の打開には、トップダウンで、クオータ制や⼥性による⼥性のメンター制度の導⼊が効果的であろうという提案がなされた。また、ズオン氏からは、「男⼥でリーダーシップの典型的なプロファイルが異なる」という考えが示された。

⽯井クンツ昌⼦IGS所⻑からは、日本におけるジェンダーとリーダーシップの現状と、その原因の分析が示された。日本で、経済、政治分野での⼥性の進出が遅れている理由には、伝統的なジェンダー・イデオロギーによる男⼥間の分業規範が根強く残っていること、いわゆる「ロール・モデル」が十分に存在していないこと、男性からの、そして制度的な家事育児への⽀援が不足していることがある。このような社会環境を変えていくには、幼児教育や初等教育、特に家庭科教育でジェンダー平等について学ぶことが重要との指摘があった。また、既存の研究報告がリーダーシップ・スタイルに性差はないと示していることからも、限定的に「⼥性の」リーダーシップの理想を追求することには疑問があると述べ、これについてのディスカッションを持つことが提案された。

小林誠IGL所⻑は、日本政府の⼥性活躍政策について分析した。首相官邸の主導により、内閣府男⼥共同参画局や経済産業省などが精力的に進めている⼥性活躍促進の目的には、⼥性人材の活用は利潤につながる、といった内容が目⽴つ。本来重要なのは、⼥性の活躍を当然とする「フェアネスの高い社会」の実現であり、そのために⼥性のリーダーシップが必要とされているのだ。昨今の「新自由主義」的な効率優先の考え方は、人権をないがしろにしがちである。大学という場には、「あるべき未来に向けて知的課題を解決していく」という社会的役割があり、⼥性リーダーシップの育成においてもそれを念頭において、国境を越えた知的交流を進めていくことが有益であると述べた。

総括し、チョソンナム梨花⼥⼦大学リーダーシップ開発院⻑のコメントでは、競争と成功に重きを置く従来の⻄洋を模範とする男性⽀配型モデルからの、パラダイムシフトが必要だと強調された。「創造的⺟性型リーダーシップ」として提案された新しいリーダーシップのパラダイムは、21世紀のグローバル市⺠として、共生、分かち合い、平和そして持続可能性を重視するというものである。梨花⼥⼦大学とお茶の⽔⼥⼦大学の共同事業では、このような新しいパラダイムを構築し、これに基づく「グローバル⼥性リーダーモデル」の創出を目指したいと、今後の共同研究の抱負が述べられた。

続くディスカッションでは、司会の大木直⼦IGL特任講師より、男⼥のリーダーシップ・スタイルに違いはあるか? アジアにおけるリーダーシップ論とは何か? 国際的なネットワーキングを成功させるために重要なことは何か? アジア社会において男⼥格差がなかなか縮まらないのは何故か? という4つの質問が出され、今後のリーダーシップ理論構築の基礎となる議論が展開された。お茶の⽔⼥⼦大学とNTNU、梨花⼥⼦大学との共同研究への期待が高まるシンポジウムであった。

記録担当:吉原公美(IGS特任リサーチフェロー)

《イベント詳細》
国際シンポジウム「ジェンダー視点に基づいたグローバル女性リーダー像」

【日時】2019年1月12日(土)13:30〜17:00
【会場】共通講義棟2号館201
【第1部:学⻑講演】
「ジェンダー平等と女性のリーダーシップ」
キム ヘスク(韓国・梨花女⼦⼤学校総⻑)
アンネ・ボルグ(ノルウェー科学技術⼤学副学⻑)
室伏きみ⼦(お茶の⽔女⼦⼤学⻑)
【第2部:パネルディスカッション】
「グローバル女性リーダー:多様性とネットワーク」
ソン イェラン(梨花女⼦⼤学校リーダーシップ開発院研究員)
キム・アイン・ズオン(ベトナム女性学院副学⻑)
⽯井クンツ昌⼦(お茶の⽔女⼦⼤教授・ジェンダー研究所⻑)
⼩林誠(お茶の⽔女⼦⼤教授・グローバルリーダーシップ研究所⻑)
チョ ソンナム(梨花女⼦⼤学教授・リーダーシップ開発院⻑)
【パネル司会】
⼤木直⼦(グローバルリーダーシップ研究所特任講師)
【総合司会】
⼩林誠(グローバルリーダーシップ研究所⻑)
【主催】グローバル女性リーダー育成研究機構[グローバルリーダーシップ研究所・ジェンダー研究所]
【言語】日英(同時通訳)
【参加者数】170名