IGS通信 2016

セミナー「Family and Schooling in Contemporary Japan」

2016年6月16日、スーザン・D・ハロウェイIGS特別招聘教授によるIGSセミナー「Family and Schooling in Contemporary Japan: Foreign Perspectives and Research」が開催された。ハロウェイ教授の研究分野は、家族と幼児教育の文化的側面からの分析であり、日本の就学前教育についての調査をもとにした著書『ヨウチエン:日本の幼児教育、その多様性と変化』(北大路書房、2004年)は、幼児教育関係者の間で広く講読されている。

講義では、米国人研究者による日本研究手法の変遷およびハロウェイ氏自身の40年にわたる日本でのフィールドワークについての解説がなされた。米国内で日本の教育についての関心が高まったのは、「日本脅威論」が広がりを見せた70年代終盤であり、これはちょうど教授自身が日本の幼児教育研究に着手した時期に当たる。当時の米国研究者の視点は、主に、日本の特異性や「良さ」にばかり目を向け、その源泉を短絡的に「文化」に求める偏りのあるものだった。そうした「外国」からの研究視点が、日本社会の中の差異の存在に気付き、それに目を向け、理解しようとすることで、内外の別へのこだわりを排した客観的な分析視点に変わってきた。講義の中で、ハロウェイ氏はこうした客観的視点を自身がどのように経験的に身に着けたかを示してくれた。氏の経験に基づくこの研究方法の解説は、国際比較研究に取り組む大学院生にとっては示唆に富んだものであった。

講義後半では、『少子化時代の「良妻賢母」:変容する現代日本の女性と家族』(新曜社、2014年)にまとめられた研究にも触れ、日本社会には、伝統的な「良妻賢母」の役割を担おうとしない現代女性を利己的と決めつける伝統文化偏重の傾向があると指摘し、政府や女性問題を取り扱う行政機関は、そうした時代遅れな文化的な言説の強化に努めるのではなく、もっと女性の意見に耳を傾け、現状理解を深めることが望まれるとの希望を示した。そして、「文化」であると正当化される慣習への思い込みを捨て、あきらめずに社会的公正を求める行動を続けることが、自身の日常を変えていくことにつながるはずとの励ましの言葉で、講義は締めくくられた。

  (記録担当:吉原公美 IGS特任リサーチフェロー)

ハロウェイ氏
スーザン・D・ハロウェイ氏

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開催詳細
日時】2016年6月16日(木)15:00~16:30
会場】お茶の水女子大学本館128号室
講師】Susan D. Holloway(IGS特別招聘教授、カリフォルニア大学バークレー校教授)
コーディネーター】石井クンツ昌子(IGS所長/お茶の水女子大学基幹研究院教授)
主催】お茶の水女子大学ジェンダー研究所
参加者数】30名