IGS通信

セミナー「性別二元性規範を考える」

IGSセミナー報告「性別二元制規範を考える:『性別が、ない!』上映会&パネルディスカッション」(⽣殖領域シリーズ)

2020年2月12日(水)、社会に根強く残る性別二元制規範がもたらしている状況をジェンダーやセクシャリティの問題に関連付けて考えることを目的に、セミナー「性別二元制規範を考える:『性別が、ない!』上映会&パネルディスカッション」を開催した。

セミナーは2部構成で、前半ではインターセックスの当事者を主人公とするドキュメンタリー映画『性別が、ない!インターセックス漫画家のクィアな日々』(制作:ザ・ファクトリー、監督:渡辺正悟)を60分間上映した。この映画ではインターセックスの主人公だけでなく、様々なセクシャリティの当事者が登場し、映画全体を通して性が多元的で多様であるという現実をセミナー参加者全員で共有した。そして映画の上映後、⻑谷川渚紗(お茶の水⼥子大学修士学生)、石丸径一郎(お茶の水⼥子大学准教授)、藤原和希(label X代表)の3人が登壇し、「性別二元制規範を考える」というテーマでパネルディスカッションを行った。

最初の登壇者の⻑谷川はこれまでもレズビアン・アイデンティティの形成とジェンダー規範等に関して研究をすすめてきた。「性別二元制に基づく(異)性愛規範と抵抗としてのクィア実践」と題する報告で、特に韓国でフェミニズム運動が活発になる一方でジェンダー差別が依然存在し、それがクィア・カルチャーの受容にも影響を与えている点をあげた。

第二登壇者の石丸は自⾝のLGBTに関する研究や教育での取り組み、および性同一性障害を中心とする臨床心理相談等について紹介した。そして差異のとらえ方では客観的分類と主観的感覚が異なることを示し、マイノリティ・アイデンティティの中でも多様なとらえ方があると述べた。

最後にXジェンダー(性自認が男性で⼥性でもないというセクシュアリティ)の当事者である藤原は、自⾝のXジェンダーとしての経験や代表をつとめるXジェンダーの当事者の会「label X」の活動を通して、当事者の中でも様々なとらえ方や考え方があることを紹介した。そして今後社会に性別を無限と捉える「性別無限論」が広まればいいと述べた。

登壇者の話のあとには、参加者からも性別二元論に対する意見や質問などを受けた。特に興味深いコメントに以下のようなものがあった。「人の数だけ性のかたちがあり、性別無限論が実現すれば、もっと生きやすい社会なるのではないか。」「セクシュアリティが多様であることは理解するが、生殖という現実を考えると二元論にこだわる考え方がなくなることはない。」「マジョリティの中でもマイノリティの中でも差別や不寛容さはある。大事なのは教育を通して個々を尊重する心を育てることではないか。」「性別二元制を考えるときには、日本だけでなく他国の状況等も含めてみつめ、そうした国々の人たちとコミュニケーションをとり考え方を共有すべきだと思う。」「性別二元制をなくすのではなく、それを越えたい。」「個人的に性別役割分業に強い反感を持っていたが、石丸先生や藤原さんの話を聞き、性別二元制にこだわる人も含めて性に対するどのような考え方をする人も尊重されるようになればいいと思う。」「第三者が人の性別を判断することはむずかしいが、性別や性自認をはっきりさせることは当事者にとっても難しいこともあるかもしれないと思った。」などである。

本イベントを通してジェンダー規範が性別二元制規範と深く関連しており、多様なセクシャリティの受容にも影響を与えていることが明らかとなり、性別二元制がもたらしている問題を考える機会を提供できたと思われる。今後もこうしたテーマのイベントを開催し、さらに議論を深めていきたい。

記録担当:仙波由加里(IGS特任リサーチフェロー)


《映画情報》
『性別がない!インターセックス漫画家のクィアな日々』
監督:渡辺正吾
製作:Z-factory 2018年
https://seibetsu-movie.com/

《イベント詳細》
IGSセミナー「性別⼆元制規範を考える:映画『性別が、ない!』上映&パネルディスカッション」(⽣殖領域シリーズ)

【日時】2020年2月12日(月)18:00〜20:30
【会場】本館126室
【パネリスト】
石丸径一郎(お茶の水⼥子大学准教授)
「性別二元制とアイデンティティの持ち方」
藤原和希(label X 代表)
「Xジェンダーについての経験と label X の活動」
⻑谷川渚紗(お茶の水⼥子大学大学院博士課程人間文化創成科学研究科)
「性別二元制に基づく(異)性愛規範と抵抗としてのクィア実践」
【モデレーター】仙波由加里(IGS特任リサーチフェロー)
【参加者数】47名