IGS通信

セミナー「コンドルセの政治社会像と⼥性への視点」

IGSセミナー報告「コンドルセの政治社会像と⼥性への視点」

2020年2月14日(金)に、IGSセミナー「コンドルセの政治社会像と⼥性への視点」を開催した。報告者の永見瑞木氏(大阪府立大学)は『コンドルセと〈光〉の世紀:科学から政治へ』を著した新進気鋭の研究者で、コンドルセ研究者である。

当日は、まず科学者・哲学者として、また政治家としても活躍したコンドルセの生涯と問題関心が概観され、人間の可謬性と社会の不確実性の認識から、科学の方法論の適用や確率論の社会的問題(失踪者の財産相続、終⾝年金の評価、航海保険、裁判の証拠、証言の信憑性、保険、選挙制度、議会の構成、税制、公債)への応用に対する関心をもち、新しい政治社会の在り方としての、共和国の構想へというコンドルセの理路が示された。

コンドルセの政治社会像の特徴としては、出版の自由とともに知の普及と共有、反権威主義(権威への絶対的な信奉に批判的であり、知の特権階級化にも反発)、依存の関係に陥らないための才能と良識、政治家と市⺠との完全な分業ではなく、流動的な在り様を前提にした批判と改善を目的とする関係を基礎にして、『地方議会の構成と役割についての試論』(1788年)における「平等な代表制の原理に基づく三段階の地方議会の確立による政治社会の根本的な再編」と「国⺠議会の創設」が展望され、「市⺠による監視、異議申し立てなどを通じた、下からの国政の刷新という視点」が示されたところにあると言う。⾰命期の共和国構想でも、人間の可謬性の認識から、「社会の制度が常に人⺠の検証に晒される、全体として非常に動的な秩序像」として、一院制立法府や執行府の公選制、合議制が示された。

このようなコンドルセの秩序構想において、⼥性への視点が示されるのは1780年代後半以降に書かれた『ニュー・ヘヴンのブルジョワからヴァージニアの市⺠への書簡』(1788)、『地方議会論』(1788)、『⼥性の市⺠権の承認について』(1790)、『公教育に関する覚書』(1791)、『人間精神進歩史』(1794)といったテクストである。これには、1786年に結婚したソフィー・ド・グルシーの存在が研究史では指摘されているとのことだったが、第1に、権利における平等が語られ、それは感覚的存在としての人間が有する自然権を根拠にしたものだった。実際、能力においても両性間で平等に分配されているし、男⼥で一方に決定権限を必然的に与えることは問題であるし、公職への被選挙権から⼥性を排除することは、選挙人の自由の制約や、排除される⼥性自⾝にとって不正であるとされた。

第2に、「性差については、妊娠や出産などの点で「生物的、⾝体的能力における性差」を男⼥に認めつつ、「精神、知性における性差」はほぼ認めていない。性差は教育や習慣・偏見によって生じたものと考えられていた。

第3に、公教育の平等として、「教育の目的、内容・程度、手段における平等」が説かれた。教育の不平等が専制の主要な要因であるということからも、男⼥共学の勧めが説かれたとのことである。

但し実践面での限界と思われるものとして、理想と実践の隔たりがあり、「立法議会に報告した公教育案では、⼥性の教育の権利について、やや消極的な態度を見せ」たし、1793年憲法草案では、⼥性の政治的権利の規定はなく、男性に対する政治的権利のみが示されたとのことであった。

当日の参加者は18世紀〜19世紀の英仏を研究対象とする研究者がほとんどだったので、質疑応答では、コンドルセと同時代人で『⼥性および⼥性市⺠の権利宣言』を書いたオランプ・ド・グージュなどとの知性史的関連、当時においてもさまざまな階層や職業の⼥性がいたのであり、コンドルセはどのような⼥性を念頭に置いていたのかといった問題、またスコットランド啓蒙の文明―野蛮などの影響如何をはじめとした英仏の思想の影響関係など、活発な議論が交わされた。

記録担当:板井広明(IGS特任講師)


《参考書籍》

『コンドルセと〈光〉の世紀:科学から政治へ』
永見瑞木 著

白水社 2018年1月刊
ISBN:9784560095966

https://www.hakusuisha.co.jp/book/b335565.html

《イベント詳細》
IGSセミナー「コンドルセの政治社会像と⼥性への視点」

【開催日時】2020年2月14日(金)15:00〜17:30
【会場】国際交流留学生プラザ2階多目的ホール
【報告】
永見瑞木(大阪府立大学講師)
【司会】板井広明(IGS特任講師)
【参加者数】10名